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インタビュー

2018.09.26


− 特集 − 作家は語る 日本画家 芝康弘


光で紡ぐストーリー

[―優しき光にー 芝康弘 日本画展 
2018年10月10日(水)→16日(火)開催 
坂屋名古屋店本館8階美術画廊]

光を多く取り入れた風景を描く日本画家、芝康弘先生の個展が10月10日(水)から開催されます。今回のインタビューでは、「光」についてのこだわりをたくさんお聞きすることができました。優しい光と緻密な描写。知らなかった部分が見えてくると、より作品を楽しめるはずです。

「光」への強いこだわり

―芝先生の絵で印象的なのは、やはり「やわらかな光」ですよね。

今回の個展は「優しき光に」というサブタイトルです。現代では光と影を利用して日本画を描くことはそんなに変わったことではないですが、もともと日本画というのはフラットな絵画というか、どちらかと言うとあまり光と影を取り入れて描かないものだと思います。でも私は洋画の作家が好きだったりして、ああいった光と影のある空間を表現したいと思いました。

―子どもや馬のモチーフが多いのも、「光」と関係ありますか?

特にこだわりはないですが、強いて言うなら、子どもの方が表情をつけやすいんですよね。例えば、化粧をしている女性は表情が安定してしまいますが、子どもの素の表情は見る人がいろんな汲み取り方をしてくれるんですよ。優しい顔だなとか、真剣なことを考えているのかなとか。動物だったら馬が多いのも同じ理由で、馬の表情って人間の表情にちょっと似ているところがあるんです。犬や猫より表情のバリエーションが多い。今回の個展で馬の顔のアップだけを描いた絵を何点か出すんですが、まつげとかすごくかわいいですよ。

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モチーフにこだわりはないですが、光にはこだわりがあります。私は大下図の段階で、「ハイライト」と言う「光が当たると一番明るくなる部分」を決めています。最初にそこを決めておかないと、絵がボヤボヤしてしまう。描いている途中では、やわらかい光と影を表現するために、きつい逆光で真っ暗にならないよう、影色をどの程度に留めるか神経を使っています。あとは、ハイライトのリズム感。絵の中で目立つところだから、これが音符のようにリズミカルじゃないと絵が単調になってしまうんです。

日常の写実な世界の中で話を紡いでいく

―芝先生の描く日常の風景は、どこか懐かしい感じがします。

自分の子どもを描いたり、身近な風景の方が逆にドラマチックに描けることが多いです。偶然出会った名もなき街の名もなき場所よりは、いつもの散歩道で出会っている風景の方が実感を乗せやすい。そこに光を汲んだ表情をもってきてあげたほうが、人に伝わるかなって思っているところはあるかもしれないですね。私の絵には帽子がよく登場しますが、目線が全部見えているとちょっときつくなってしまうと感じたときに目線を隠すことに使ったりして、そういうところもすごく気を遣っています。

光の表現のルーツ

―今の作風とはまったく違う、石膏のレリーフ作品をつくっていた時期もあったんですよね?

なかなか院展に入選しない時期に、ちょっと違うことをやろうかなと思って。その頃は平面が頼りなく感じて、触覚的に楽しいものがつくりたくなったんです。誰からも教わらず、自分のオリジナルでつくりました。大変でしたが、おもしろかったですね。

当時そういったことをしながら、久しぶりに院展を観に行ったときに、平面なのに説得力のある作風が多いことを改めて実感しました。一度、違う分野に挑戦したことで、平面で頑張っている人たちの絵のすごさを感じることができた。それで、日本画に戻って本気で出品しはじめたんです。

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日本画は鉱石を砕いて絵の具にします。だからザラザラしてボリュームがあって、質感が豊かです。それが日本画の魅力なんですが、光を表現する上ではそのボリューム感が邪魔だったりします。だから私は乗せた絵の具を結構削っているんですよ。「濡れた状態」じゃなくて、削った跡がそのまま表情になる「乾いた状態」で絵の具を削ります。削り方や下地の絵の具の乗せ方によって取れ方が変わるので、境界線をコントロールしやすくなる。やわらかく境界線をぼかすこともできれば、下地の絵の具によっては、しっかり絵の具が取れてシャープで明快な光と影になったりします。これは自分で偶然編み出しました。

―そんなふうに削って描かれているとは思いませんでした。

私の絵は、とても下準備に時間がかかるんですが、最初の削り出しが一番楽しいです。いきなり画面が浮かび上がってくるので、発掘する考古学者みたいな感覚になります。仕上げには、うるさくならない程度に金箔の粉を蒔いたりもしています。

私が変わった描き方をしているのも、石膏をやっていたときの影響があるかもしれません。遠回りはしましたが、それで自分のオリジナルの表現を見つけることができたのだと思います。

光の中へ目を凝らすように

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―今回の個展について聞かせてください。

多くの知人にも見てもらえる地元での個展はやっぱり別物です。3年半ぶりとなる今回の個展ですが、自分らしさをより極めた形でお見せしたいです。ゆったりとした大きな空間で自分の作品たちが、どう見えるか・どう見ていただけるか楽しみです。わりと近くで立ち止まって見てもらえると嬉しいです。基本的には、ちょっと遠くからどう見えるかを考えて描いているのですが、近くから見ても子どもや動物の表情まで感じ取ってもらえるように、完成まで気持ちを切らさないように描き上げています。自信を持ってお見せできます。

自分の記憶の中にある情景と、作品の情景との境界線を曖昧にさせる、芝先生の描く優しい光。思いを巡らせながらじっくりとご覧ください。

プロフィール

芝 康弘 YASUHIRO SHIBA 

1994年  愛知県立芸術大学日本画科卒業
1996年  愛知県立芸術大学大学院日本画科修了
1998年  名古屋城本丸御殿障壁画 復元模写事業参加(~’06年)
2001年  第86回院展初入選(17回入選) 
2003年  第58回春の院展初入選(16回入選)  
2004年「岩絵具の可能性を求めて」展出品(古川美術館) 
2006年  うづら会(日本橋三越本店、名古屋三越 ~2013年) 
2007年  個展「光彩を紡ぐ」(アートサロン光玄)  
2009年「日本画の今、若手作家の挑戦」展美術館推薦出品(古川美術館) 
2011年  個展「 - 風と緑の響き - 」(松坂屋名古屋店) 
個展「 - 光彩の調べ - 」( 髙島屋大阪店、岡山店 ) 
個展「 - 生命の輝き - 」( 東美アートフェア・柳井美術ブース ) 
2012年「PASSION 芝 康弘・大矢亮二人展」(松坂屋上野店) 
個展「Menuet メヌエット -緩やかな響き-」(そごう大宮店、’13そごう千葉店、徳島店) 
2013年  第68回春の院展 奨励賞受賞
第13回~ 伝統からの創造 21世紀展出品
2014年  若鶉会(日本橋三越本店、名古屋三越)
個展「つながるいのち」( 日本橋三越本店 、 松山三越 ) 
2015年  個展「- Aria -アリア」(松坂屋名古屋店) 
個展「やさしくつつみこむように 」(髙島屋大阪店、京都店、岡山店) 
2016年  創と造 出品
個展 (そごう横浜店、広島店) 
2017年  個展「煌めくいのち 」(そごう神戸店) 
個展「芝 康弘 日本画展」(小倉井筒屋総合美術展)
HOPES 次世代百選展(日本橋三越本店)
個展「いとしさのかたち」(日本橋三越本店)
平成29年度 阿波文化創造賞受賞
2018年  紬人の会(髙島屋大阪店、京都店、横浜店)
個展「- 優しき光に -」(松坂屋名古屋店) 
  • 1970年生まれ 徳島県出身
    所蔵 東京オペラシティーアートギャラリー、郷さくら美術館 等
    現在 日本美術院 院友
    愛知県立芸術大学、愛知学院大学非常勤講師   

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