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インタビュー

2018.08.24


-特集- 作家は語る 洋画家 山本正英


英国に風景を求めて

[第7回 山本正英 油彩展 
2018年9月12日(水)→18日(火)開催 
松坂屋名古屋店本館8階美術画廊]

イギリス風景をテーマに絵を描いている、山本正英先生の個展「第7回 山本正英 油彩展」が9月12日から開催されます。博学でジェントルマン。まさに英国のイメージとぴったりなお人柄の山本先生。今回のインタビューでは、先生が所有するイギリスの地図を広げながら、イギリス風景を描くようになったきっかけ、さらには美術の世界へ入るきっかけと、ご自身の絵についてお話ししていただきました。

道を見失った自分を受け入れてくれたイギリスの風景

―「最初からイギリスに惹かれていた訳ではないんですよ」と、意外な一言から山本先生とイギリスのお話は始まりました。

芸大生のとき、自分で稼いだお金でフランスのルーヴル美術館に行きました。当時の私は牛乳瓶とか身近なモチーフを描けば絵になると思っていたので、王侯貴族の間を飾るようなきらびやかな絵画を観てカルチャーショックを受けた。この道に入ったことが間違っていたんじゃないかと思ってしまいましたね。その後も何度かルーヴルへ行き、たまたまトランジットでロンドンに一泊したときのことです。ウィンブルドンのあたりで、美しいエバーグリーンの芝生に羊がいるような風景を見た。それは、すごく自分を自然に受け入れてくれる風景でした。この風景なら自分の絵のテーマとして扱えるんじゃないかと思ったのが、イギリスに興味を持ったきっかけです。

共に旅してきた地図の数々

イギリスで初めて描いたのは、ヨークの街から電車で1時間くらいの場所にある、スカボローキャッスルというルーインズ(廃墟)です。そのときルーインズに感じた何とも言えない造形美は、「建築物が崩壊していき、大地へ溶け込んでいく途中段階のカタチ」の魅力によるものだった。自然だけではなく、そこに人間のつくった建築物が溶け込みだしている中間領域のカタチを自分の絵のテーマにしようと思い、ミシュランの地図でルーインズを探してスケッチを始めました。そうして、一人でイギリスを歩いて、スケッチをすることが人生の充実感につながっていったんです。イギリス人はジェントルマンで、スケッチをしていても子供すら近づいてこないんですよ。だけどスケッチを終えて、今夜どこに泊まろうか聞こうと思っていると、ワッと集まってきて教えてくれる。案内までしてくれたこともありました。旅行してスケッチするのには、本当に居心地のいい国です。今ではすっかりハマりましたね。

どんな分野を選んだかは、「豊かな人生」と関係しない

―今でこそスケッチの旅を楽しんでいる山本先生。実は理系の道へ進もうとしていたという。

私は、読売新聞社主催の「日本学生科学賞」に応募するような中学生でした。そのときに、化石の図版を120枚ほど描いたんですが、今思えばそこでデッサンの基礎が身についた。美術の授業で絵を描いたときには、「調子」があるということを自分で発見しましたし、周りの友達よりも早くからモノを見る能力が高かったみたいです。中学でしっかりとモノのカタチを捉えることができるようになっていましたので、高校へ入って私が描いた絵を見た先生に、美術部へ入るように言われました。その先生は東京美術学校の日本画を主席で出た人で、一緒に日展を観に行ったこともあります。観終わった後、東京芸大を案内してくれました。まだ木造建築の東京美術学校時代の芸大で、大型の石膏像と芸大生が描いた、いくつものデッサンを見た。そのときのことは、私が美術を選択する上で相当な刷り込みになりました。

日本学生科学賞では知事賞を受賞している山本先生

もう一人、私が芸大へ進学したことに大きく影響した先生がいます。その先生は、いたずらで紙飛行機を飛ばした子に、「おもちゃの紙飛行機を飛ばすなら、本物の飛行機を飛ばしたらどうだ」と笑顔で言い、航空工学について話し始めるような先生でした。そんな先生が、進路を考えていた私に向かって「文系にも奥の深い世界がある」と言ったんです。私にはその一言が「山本、やってもいいんだよ」というメッセージに思えました。どの分野を選んでも人生に無駄はないと考えています。何を選んだとしても、人間にとっての豊かさとは何かを考えられる、ゆとりのある人生が「豊かな人生」なんじゃないかな。

魅力あるイギリスの風景をできるだけ素直に

―「豊かな人生」を体現しているような山本先生のお話を聞いていると、より一層イギリスに興味が
湧いてきます。


イギリスには、ケルトやローマ、アングロ・サクソン、ヴァイキングが来てノルマン、日本では考えられない多くの民族が歩んできた歴史や文化があります。ケンブリッジにはトリニティカレッジなど、ニュートンがいた場所が今もそのままあったりする。ある程度、基本情報を持って行くとおもしろいですよ。電車に乗ってしまうと風景が見つからないので、私の移動手段はローカルバスです。いいと思った風景があったら降りる。ヒースロー空港の横を流れるテムズ川を1週間スケッチしながら、オックスフォードまで行ったこともありました。

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左:F20「エアの公園」 右:F30「ウェルズの住居」

そんな魅力あるイギリスの風景を、できるだけ素直に扱いながら自分の美術の世界をつくっていきたいと思っています。すごく時間をかけて描いているんですよ、私。対象のカタチにこだわりながら、作為的にならないように手数を入れている。特に油絵の具は分質として、絵の具のイリュージョンですから、手数を入れただけ人に伝わるものがあると思っていますね。

―最後に、9月の個展についてどうぞ

イギリス風景をテーマにしてきて、さらに一歩、もう一歩進んだところまで絵を突き詰めることができてきたと思っているんです。自分がのめり込むことができる造形的なおもしろさを集中して描く。その充実した時間から生まれた絵に、見る人も共振してくれるだろうと思っています。

山本先生が描くイギリス風景と、どんな「共振」が起こるのか。是非、その目で確かめにいらしてください。

プロフィール

山本正英

1948年 山梨県甲府市に生まれる。
1975年 愛知県立芸術大学大学院修了
1991年 両洋の眼・現代の絵画展 (日本橋三越、京都大丸、他)
1992年 1192展(松坂屋上野店、名古屋店)
1995年 個展(丸栄/名古屋)
1996年 個展(日本橋三越本店 ’98、’01、’04、’08、’12)
1998年 笠の会展(松坂屋名古屋店 ~’16)
1999年 個展(仙台三越 ’08、’12)
2000年 個展(天満屋本店/岡山)
2001年 個展(松坂屋名古屋店 ’03、’05、’07、’13、’15)
2002年 2002現代洋画選抜展(松坂屋名古屋店 ~’06)
2003年 個展(札幌三越)
2004年 個展(福岡三越 ’09、’13)
2007年 個展(松坂屋静岡店 ’09)
2009年 個展(高松三越 ’12、’14、’16)
2013年 個展(大阪高島屋 ’16)
2016年 個展(横浜高島屋)
2018年 個展(広島三越)
個展(松坂屋名古屋店)
現在 日本美術家連盟会員、名古屋造形大学特任教授

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