インタビュー
2019.03.28
− 特集 − 作家は語る 日本画家グループ G6
G6 それぞれの思想 〜若き同世代の日本画家グループ〜
[G6展
2019年4月3日(水)→9日(火)開催
松坂屋名古屋店本館8階美術画廊 10時→19時30分 最終日は16時閉廊]
東京藝術大学の日本画科を卒業した若手精鋭作家6名が集まったグループ「G6」による、「−日本画− G6展」が4月3日(水)から開催されます。
今回はアンケートで6名それぞれに同じ質問をしました。一人ひとりの人間性はもちろん、G6メンバーの関係性もわかるような回答から、彼らの作品をより深く鑑賞できるポイントが見えてくるはずです。
日本画を専攻したきっかけや理由を教えてください。
泉 高校の先輩に誘われて決めました。岩絵具は知りませんでしたが試験課題が自分の性に合っていたのが決め手です。
大久保 予備校で日本画科の作品を観た時に、鉛筆デッサンで対象を克明に捉える描写力や着彩の色彩再現の感覚に憧れて、絵画の基礎力を養いたいと思ったのがきっかけです。その後、岩絵の具そのものから発する色の綺麗さや粒子による異なった質感、使い方次第で様々な絵肌ができる可能性に魅かれていきました。
大沢 中学生から高校生の時期は特にゴットフリート・ヘルンバイン(Gottfried Helnwein)が好きでした。彼は水彩画で社会問題などを題材としてリアリスティックな作品を描く画家。僕も先ずは技術的にもヘルンバインの様に写実的に描ける様になりたいと思い、日本画科の受験課題が写実的な内容だったので専攻しました。
三枝 発端は中学の美術教員に勧められた事です。高校の教員が芸大日本画出身だったので、可能性の有無を相談した所、大丈夫そうだと言われたのに加えて、リアルなデッサンと水彩というシンプルな試験課題に惹かれました。
並木 前田青邨先生の武者絵が好きだったことから日本画を専攻しました。
吉田 見たものを素直に描く描写力が欲しくて、芸大の日本画を志しました。
絵を描く上で、大切にしていることは何ですか。
泉 どの工程でも作品の荒が嫌いです。なので、そこはキッチリしていこうと思っています。それの繰り返しでまた先の作り方が見えてきます。
大久保 大袈裟に言うと、松尾芭蕉が言っている不易流行(いつまでも変わらない本質的なものに、常に新しい時代の変化を取り入れていくという芸術精神)を大事にしたいです。完全なオリジナル作品というものはあり得ませんが、色々な作品から刺激を受けつつ、自分なりの捉え方や技法を模索して作画するように心掛けています。
大沢 身近な物事も絵の題材になることがあるので、日々アンテナを張るようにしています。それと、世の中にある全ての物事は自分の仕事全てに関連すると考えているので、幅広く勉強するようにもしています。
三枝 他人の意見を聞く。
並木 自分の味わった感動を表現するように心がけています。
吉田 自分の描きたいもの、言いたいことだけを表現するだけではなく、観る人や作品を購入してくださる人のことを考えて制作することです。
自分自身の作品について、言われて嬉しかったことや印象に残っていることを教えてください。
泉 今と学生時代とのギャップから、メンバーには未だによく感心されます。大沢に「お前には俺が必要」と言われ心動かされました。
大久保 大沢君から「最近の絵が良くなっている」と言われたこと。同級生として大学1年生から20年近くお互いの制作した作品を観てきた仲なので、素直に嬉しかったです。以前に、作品を鑑賞された方から自分のHPを通じてメールを頂戴したことがあります。「色合い、構図、線、作品をみることが心地よくて、脳と皮膚の境目が意識される感覚」と言ってくださったのが制作している上で励みになりました。
大沢 7年前の個展の時、恩師である斎藤先生に「いい展示だなぁ〜」と感心された様子で言ってもらえたこと。なかなか褒めてくれないので嬉しかったです。もう本人は覚えてないと思いますが……(笑)。
三枝 15歳くらい年が離れた芸大の後輩(男性)からのメールで、「箔の貼り方凄いですね!今度教えて下さい!」。居酒屋でG6メンバーから言われたことで、「いつまでも箔だけで成立すると思ってんなよ」。
並木 保存の後輩が展示に来てくれて、自分の後輩であったことがうれしいと言ってくれたこと。
吉田 オリジナルの表現技法。色気がある。
G6の中で自分以外の作品を褒めるとしたら、誰の作品で、どんな部分を褒めますか。
泉 並木の截金にはいつも感嘆します。もし自分がやるとなったら発狂ものです。
大久保 並木君の截金技法。こんなに箔の扱いに長けていて自作品に生かすことができる人は自分の知る限り並木君だけかもしれない。ずっと作品を所有したいと思っていて一昨年やっと1枚買えました(すぐ売り切れるので半年前から予約)。吉田君の日本画出身ならではの版画作品にも魅かれる。シャープで繊細な中にあるユーモラスなセンスと構成力が抜群だと思う。これから価格が上がる前に早く1枚欲しいと思っています。
大沢 泉くんは筆法で描いて見せるのが特徴で、僕には真似のできない筆使いを用いて作画していると思います。勢いのある筆運びであるのにもかかわらず、精巧な筆運びもあり、非凡な技を感じます。
大久保くんの作品は比較的色数が多く、色数が多いと画面をまとめるのは困難になるが、それでも画面全体の色調がしっかりとまとまっており非常に構成も巧み。絵の具の塗り込み方にしても真似のできない均一で精密な絵肌で、うらやましい!!
三枝くんは一貫した作品群で彼独自の技法を地道に探求しているが、飲み会などで話していると様々なジャンルに対して博識で、その知識や思想あっての作品なんだと思います。そして、三枝くんとの会話の中から滲み出る次の展開がとても楽しみです。
並木くんは同年代の作家としてトップランナーの一人と言えると思います。温厚な性格からは乖離した切れ味のあるシャープな作品、伝統的な技法を自分の技法として吸収し、最強すぎてムカつきます(笑)。
吉田くんは大学時代の学部卒業制作で初めて彼の作品を見ましたが、学部生の初めての大作だというのにも関わらず、何十年も日本画材にふれてきたんですか?というくらい技術の高さに驚きました。さらに大学院は版画へ進んだものの版画技法においても素晴らしいバランス感覚で、軽快で新鮮な作品はG6展に花を添えてくれている感じがします。
三枝 並木氏の絵の風情。私が再現したくとも一生できない。
並木 大沢くんの作品で、いろいろ素材の特徴を利用しているけど自身の世界観のブレがないのがすごい。
吉田 全員が尊敬できる作家ですので、誰か一人というのは特定できません。ただ、全員の作家に言えることがあります。とても大事なことだと思いますが、現在まで作家として活動を続けているということです。
「G6」は自分にとって何であるか、一言で表現していただきたいです。
泉 年刊青年ジャンプ(努力、友情、飲み会)。
大久保 自己確認の場。同世代のグループ企画展でこれだけ長くやってこられたのは、お互いに良い距離感で刺激されているからだと思います。
大沢 神事。
三枝 1年で最も画力を発揮している場。
並木 同世代。
吉田 血のつながり。東京藝大の日本画という同じ血が流れている存在。
今回の展示ではどんな作品を出展しますか。見どころや意気込みを教えてください。
泉 最近ようやく一つの描き方で満足いく所まで来ることができました。引き続きの研鑽を重ねていきます。
大久保 花の作品を出します。平面構成的な作品とシンプルな作品で対比して描きました。11回目なので気持ちを新たに頑張ります。
大沢 漆箔(錫箔)で下地に錫箔、表面に金箔を貼り、下地の錫箔をほんのり削り出しています。「時間の流れ」を表現したいという考えと、漆の飴色や見る角度によって見え方の変わる箔を使用することで季節の移ろいや儚さを表現したいと思い制作しました。
三枝 私の画業は花鳥画のみです。画力を磨きながら、日本古来の風情と現代人の世界観の融合による新しい可能性を探っています。
並木 日本画の中に截金という工芸の領域の技法が混ざることで新しい表現が見えると思います。
吉田 日本画と版画を用いたオリジナルの表現技法、他にはないカラーかと思います。
最後に、「-日本画-G6展」ならではの鑑賞の仕方、楽しみ方を教えてください。
泉 比較的まだ若い(?)年齢のメンバーなので技術的な所にこだわりが多いです。表現にいくつもの技法を織り交ぜていますのでそこを見て欲しいです。実際聞いていただいた方がわかりやすいと思います。
大久保 メンバー全員がほぼ同世代で同じ藝大日本画出身ですが、大学院からは所属した研究室もそれぞれ違います。藝大日本画の中で敢えて違う6人を揃えたグループ展なので、同じ世代としての見方や絵画観もありつつ、6人それぞれのスタイルがある。だんだん若手では無くなってきていますが、展覧会で会うと一気に学生代のノリに戻ります。気持ちは全員G6展を立ち上げた時と変わっていない気がします。会場で作家を見かけたら是非話しかけて下さい。技法やテーマなどお気軽に質問して頂けるとありがたいです。
大沢 表現したい内容も見どころはあると思いますが、各自独特な技法で制作しているので、個人的には技法素材的な表徴も楽しめると思っています。
三枝 自分の事はさておき、他のメンバーは日本画業界の同世代の中で、特に独自性という点に於いては10年くらいのスパンで比較しても相当に秀でた面々だと思います。皆、それまでには無かった新しい画風を確立しています。
並木 G6の6人は東京藝術大学の日本画科を出身していますが、大学院ではそれぞれ違う研究室に行っています。この展示では一つの世代をくりぬいた、今日の日本画の姿が垣間見えるかと思います。
吉田 「日本画」のカテゴライズが難しくなってきている現代において、伝統を継承しつつも個々のコンセプトや、昇華された表現技法を用いた作品群の魅力は、先鋭的なものとして刺激を与える事ができる存在だと感じております。
各々が独自の世界観を持って活躍していますが、皆さん「G6」展には特別な想いがあるようです。仲間であり、ライバル。そんな簡単な言葉では言い表せない関係性の中で切磋琢磨されてきたG6の作品群をお楽しみください。
プロフィール
泉東臣 Izumi Haruomi
大久保智睦 Okubo Tomomutsu
大沢拓也 Osawa Takuya
三枝淳 Saegusa Atsushi
並木秀俊 Namiki Hidetoshi
吉田潤 Jun Yoshida