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インタビュー

2019.01.22


− 特集 − 作家は語る 箔工芸作家 裕人礫翔


箔に寄り添い 箔に無限の夢を見る

[深遠なる箔+アートの世界 裕人礫翔展 
2019年1月30日(水)→2月5日(火)開催 
松坂屋名古屋店8階美術画廊
10時→19時30分 最終日は16時閉廊]

高級絹織物「西陣織」発祥の地、西陣で箔工芸を営む父のもと育った裕人礫翔先生。貴重な文化財を再現し、保護・活用に役立てるプロジェクトでは、培われた伝統の技と感性で特許技術を取得しています。高精度印刷では再現できない金箔部分を、1メートル離れれば学芸員も本物と見分けがつかないほど精緻に仕上げることができる素晴らしい技術です。

そんな日本の伝統を守る活動をされている礫翔先生は、新しい手法で箔の魅力を表現し、世界から注目されるアーティスト。1月30日(水)から開催される個展では、雅でありながらも新しい箔のアート作品をご覧いただけます。
今回のインタビューでは、礫翔先生が箔工芸作家になるまでの道のりや箔の魅力、世界で高く評価される箔のアートについて迫りました。

父の背中、油彩、いろいろな視点から西陣を見る

物心ついたころから父より、「お前は、将来家業を継ぐのだ」と言い聞かされていました。ただ、父に手取足取り教えてもらったことはありません。“見て、盗め”が基本の職人の世界。父の背中を見ていて、自分も父のような名人になりたいといった意欲は自然に湧いてきました。

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大学では油彩科を専攻しました。絵を描くことが好きでしたし、いろいろなものを見て学びたかったのです。箔工芸には関係ないように思えますが、具体的なモチーフを描かずに季節感や心情を表現する抽象画は、着物や帯の文様、柄と共通しているという考えもありました。

油彩科で学んだことにより、主観的にしか見ていなかった西陣を客観的に見ることができました。京都の歴史やモノの見方が素晴らしいものだと認識できたことは、世界へ出て金箔の技術を生かしたアート作品を制作する上で役立っていると感じます。

アーティストとして世界へ挑戦

一度は家業を継ぎましたが、着物文化も品質より価格が重視されてしまう時代の波に抗えなくなっていきました。そんな中で、「西陣の技術の素晴らしさを世界に広めたい。自分の持つ金箔の技術を織物以外の世界で生かしたい。世界で勝負したい」と感じ、作家の道を歩もうと決めました。

まったくゼロからのスタート。どこに自分の作品を持って行けばいいのかもわからない状態でしたが、やがてさまざまな業界の方が箔の技術は素晴らしいと認めてくださいました。それまでは思いつかなかったような、和紙の服、木や革、ガラスなどに箔を貼るといった、箔とのコラボレーション作品がたくさん生まれることになったのです。

つくる者も見る者も魅了する「箔」

金を打展し、引き延ばすことでつくられる金箔。その技術で日本は最高レベルです。通常金97%に銀と銅を混ぜて伸ばしますが、金の含有量を調整して、赤みがかっている金や青みがかっている薄い金など微妙な色合いを出すことができます。

また、箔は見る角度や光の当て方、季節や時間によってさまざまな表情を見せるのが魅力です。ひとつの作品でも見る角度によってまったく違う表情を見せます。その美しさを用いて新しいものを生み出すことは楽しいです。

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私が一番好きなのは銀箔です。銀は硫黄と熱によって酸化させることで、淡い金→濃い金→赤い金→青い金→緑→紫→黒→墨と変化します。酸化を途中で止めることによって自分が欲しい色を得るのですが、その匙加減がとても難しい。色が安定している金に比べ、時間の経過とともに変化する銀は扱いにくいのですが、だからこそ「さび」を表現できるとも言えます。
私の大切なテーマのひとつになっている月や宇宙。月にどれほど癒やされたか、それを表現するには銀が一番適していると思っています。

時代も国境も超えて生まれるアート

2002年、京都の400年続く老舗料亭「中村楼」にて作品を発表したのが、裕人礫翔の初お披露目でした。テーマは「箔の中の小宇宙」。月や宇宙を銀箔で表現した作品群です。西陣で帯をつくる工程のひとつだった箔の技術を、箔のアートという今までにないカテゴリーで切り開いた瞬間でした。

ニューヨークでは、メトロポリタン美術館のキュレーターから「裕人礫翔の作品は日本画でも洋画でもない。どこにもない新しいカテゴリーの作品でその道のパイオニアだ。箔のアートというものを確立した方が良い」というお褒めの言葉をいただいたこともあります。

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最近はパリの写真家“ジョアンナ・ロレンツィオ”と共に、写真のアートと箔のアートのコラボレーション創作をしています。昔の銀塩写真からデジタルに変わった今、そのデジタル写真に今度は銀箔を貼るといったことに私自身、面白さを感じる作品です。お互いのアートが掛け算になり、新たなアート作品を生み出す。そういったことで、これからのアートの可能性や方向性が広がっていくと期待していますし、注目もされています。

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展示について礫翔先生からのメッセージ

今回、裕人礫翔の原点である「月光礼賛」という作品から、新たな作品シリーズ「月と風」を出展いたします。原点から最新のスタイルまで、作風の一連の流れをお楽しみいただけると思っております。
作品の箔の優美さや面白さを実際にご覧になって、何かを感じていただければと思います。名古屋の方々にお越しいただけたら嬉しいです。

自由な表現の中に息づく伝統と技術。今、このとき、箔のきらめきが見せるアートの可能性を見にいらしてください。

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