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インタビュー

2019.06.19


− 特集 − 作家は語る 陶芸家 加藤亮太郎先生


美濃で生まれ、美濃で育った人間として

[第五回 加藤亮太郎 陶芸展 
2019年7月3日(水)→7月9日(火)開催 
松坂屋名古屋店本館8階美術画廊 
10時→19時30分 最終日は16時閉廊]

美濃焼の産地である多治見市で1804年に開窯した「幸兵衛窯」。六代の加藤卓男先生はペルシャ陶器の復元など、芸術文化に寄与した功績により人間国宝に認定されました。現当主の七代加藤幸兵衛先生は日展、朝日陶芸展で最高賞を受賞するなど、各陶芸展で高い評価を受けています。

美濃焼の伝統を受け継ぎながら、それぞれの個性で作風を確立してきた歴代の陶芸家に続くのは七代幸兵衛先生のご長男、加藤亮太郎先生。志野、引出黒、織部などの「桃山陶」をメインとした、亮太郎先生の若き感性が垣間見える作品の数々は7月3日(水)から開催される個展でご覧いただけます。
インタビューでは回り道したからこそ感じた美濃の魅力やご自身の作陶のこと、そして桃山陶への想いなどをお伺いしました。

あまりに近い存在だった「美濃」

家のすぐ近くにある仕事場は、子どものころの自分にとっては単なる遊び場でした。そのときは、遊んでもらっていた職人さんのように自分もなるんだという意識はありませんでしたね。
幸いにして物をつくることは嫌いではなかったので美大を目指したんですが、陶芸の方へは行きたくないと思っていて。結局は陶芸を専攻しましたが、職人的な技術を習得するということより現代陶芸に惹かれて、ものすごく大きなオブジェなどをつくったりしていました。

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家に戻ってきてからもそういった作品をつくりたい気持ちはあったんですが、うちは食器をつくっている工場なので大学と違ってあまり無茶ができませんでした。思うような作品がつくれない状況の中、美濃の焼き物のつくり方が京都と正反対だということを知ってカルチャーショックを受けたんです。

京都は土が取れる場所ではないので加飾文化があり、デザインやフォルム、そういったところに重きを置いて物をつくります。一方で美濃は土が取れる場所ですから、素材の選定から始まってそれをどうやってカタチにして色をのせ、焼き上げるかというような物のつくり方なんです。京都に染まった自分だったからこそ、美濃の魅力を新鮮に捉えることができました。そこからは美濃の焼き物にのめり込んでいきましたね。

自分という人間が茶碗にあらわれる

桃山時代のものに比肩するような作品をつくりたいので、素材と焼きは当時と同等になるようにこだわっています。個性と現代性を表現するのは別の部分。それはおのずと自分の内側から出てしまうものだと思います。今、書と焼き物の融合やコラボレーションなど、自分でも収集がつかないくらいチャレンジしたいことがあるんです。そこで経験したことが力となって、最終的にはひとつの茶碗に返ってくるんじゃないかと思っています。

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「鼠志野茶盌」径14.0×高さ8.5cm

桃山陶をつないでいくために

卓男の最晩年の5年間を一緒に過ごした日々は、自分にとって貴重だったと思います。卓男がよく言っていたのは、「自分はペルシャの仕事をしているけれど、やっぱり基本は美濃の焼き物でベースには桃山陶の造形がある。何をやってもいいけれど、基本的なところはおさえていないと美濃の焼き物にはならんぞ」というようなことでした。
自分はまだベースをやっているのかもしれません。そんな中でも私は私なりの現代性をもった、先人がやっていない桃山陶を確立しなければという使命を感じています。今、美濃の地で桃山陶をやっている40代、50代の人は少ないんですよ。ですから脇の仕事ではなくメインの仕事に桃山陶を据えて、中でも穴窯焼成を真っ向からやろうと年間10回ほどの穴窯焼成をしています。

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引き出す様子を再現

2年半前には引出黒専用の穴窯をつくりました。引出黒というのは引き出すタイミングがすべてと言っても過言ではありません。ですので、目視しながら引き出せるように焚口から作品が全部見えるつくりにしてあります。引出しの回数も増えて、実験的なこともできるようになりましたし、だいぶ引出黒の作品が増えましたね。

異文化へ飛び込め

卓男には、「新しいものつくるときには自分と異なるものと交われ」ということも言われました。私も積極的に実践していきたいと思っていて、今回の展示に出展する、長谷川清吉君とコラボレーションした茶箱もそのひとつです。彼は金工家ですが、共にお茶を学ぶ仲間としてお互いを理解しながら作品づくりができました。

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他にも、日本各地の陶産地で活躍する若手から成る「暁坏(あかつき)」というグループで、展覧会やお茶会など催しています。同じ焼き物をやっていても、産地が違えばつくりも違うし考え方も全然違うんですよね。そういう人たちと交流することによって切磋琢磨できる良い構造になっていると思います。

各陶産地で伝統の最先端にいながら自身を表現している人たちを見て、自分の立ち位置もわかりましたし、美濃にいて美濃の焼き物をやる意味にも気づかされました。ここで生まれてここで育った人間が桃山陶をやらなくてどうするという想いで茶碗と向かい合っています。

今回の個展について

3年おきの展示ですので、日進月歩なりに3年分の変化があると思います。お茶碗中心になりますが、自分の表現というものがどれだけ変わってきているかをご覧いただきたいです。
特に、今回は引出黒専用の穴窯が増えたことで自分の作品に大きな変化を感じています。新しい試みや、清吉君とのコラボレーションで起こる化学変化のようなものも楽しみにしていてください。

美濃のしっかりとした土台の上で亮太郎先生のチャレンジは続いていきます。今の亮太郎先生の作品はどんな表情を見せてくれるのでしょうか。ぜひ美術画廊へ足をお運びください。

【略歴】

加藤亮太郎先生

1974年 七代加藤幸兵衛の長男として生まれる
2000年 京都市立芸術大学大学院陶磁器専攻修了
2001年 家業の幸兵衛窯に入る
2007年 個展(松坂屋名古屋店)‘10、’13、‘16、’19
2012年 越後妻有アートトリエンナーレ
ミノセラミックスナウ(岐阜県現代陶芸美術館)
2014年 パラミタ陶芸大賞展(パラミタミュージアム)
2015年 幸兵衛窯八代目を継承
2016年 幸兵衛窯歴代展(古川美術館)
PANK工芸(樂翠亭美術館、茨城県陶芸美術館)
2017年 引出用穴窯を築く
天然黒ぐろ(INAXライブミュージアム)
2018年 志野三昧(岐阜県美術館)
Miran Salone CASA GIFU Ⅲ(Itary)
興福寺中金堂落慶法要にて千宗屋師による
献茶道具として奈良三彩天目を制作
2019年 個展+茶会(Goldmark Gallery,UK)

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