ラグジュアリー vol.1
〈アレキサンダー・マックイーン〉
オンリーワンの理由 仕立て技と反骨美

宮田 理江|ファッションジャーナリスト

今回のNAVIGATOR

宮田 理江
ファッションジャーナリスト

ファッション関連企業へのアドバイスや、企業・商品ブランディングの協力などの仕事を手がけるファッションジャーナリスト。さまざまなメディアにて連載を受け持っている。

宮田 理江

ファッションジャーナリスト

ファッション業界での豊富な経験を活かしてファッションジャーナリストになり、テレビ、ラジオ出演をはじめ、メディアでの連載、本の執筆などで活躍されている宮田理江さん。海外・国内コレクションのリポートや最新トレンドの紹介など、最新のファッションについて発信されています。全3回の連載を通して、ラグジュアリーブランドの魅力を解説していただきます。

テーラリングと反骨の美学がロイヤルレディーも魅了

パーティーやおよばれの機会が増えて、ようやく人前でしっかりおしゃれを楽しみやすくなってきました。お出かけ気分に誘われて、「そろそろちゃんとした服を着たいよね」と感じることも増えているのではないでしょうか。人と会う喜びを装いで表現できるのは、何と素敵なことでしょう。「ドレスアップ」は気持ちを華やかせてくれる言葉です。新しい装いをまとってみたくなる今、ファッションのトレンドはタイムレスやクラシックへ向かい、長く愛せる上質さや上品な華やぎムードが支持される風向きへ。同時に、ほのかなセンシュアリティー(官能性)やロック感も盛り込まれて、一段と趣の深いテイストが盛り上がりつつあります。そうした重層的なモード感を兼ね備えている〈Alexander McQueen(アレキサンダー・マックイーン)〉はファッションの「今」を象徴するようなブランドと呼べるでしょう。

〈アレキサンダー・マックイーン〉の美学
仕立て技と反骨精神が響き合う、オンリーワンのブランド哲学

〈アレキサンダー・マックイーン〉は、1992年に設立された英国ブランド。英国王室のキャサリン皇太子妃が〈アレキサンダー・マックイーン〉のウェディングドレスをまとったことでも、世界的に注目を集めました。キャサリン皇太子妃のウェディングドレスを手がけたのは、現クリエイティブディレクターデザイナーのサラ・バートン氏です。キャサリン皇太子妃のアレキサンダー・マックイーン着用率は格別。ウエストがきれいにフィットしていて、キャサリン妃にとてもお似合いだと思ったら、その日のお召し物は〈アレキサンダー・マックイーン〉だったというのはよくあること。おしゃれ上手として名高いロイヤルレディーまで魅了する理由はどこにあるのでしょうか。

根っこにあるのは「テーラリング(仕立て)」の技術です。バートン氏は創業デザイナーの故リー・アレキサンダー・マックイーン氏(1969~2010年)とともに、英国を代表するラグジュアリーブランドを支えてきました。マックイーン氏はロンドンの紳士服テーラー街「サヴィル・ロウ」で仕立て技術を学んだことで知られています。この通りの名前は日本語の「背広」の由来ともいわれています。〈アレキサンダー・マックイーン〉が強みとするテーラード技術は、伝統的な装いが再評価される中、トレンドの主役に返り咲いています。メンズの装いをレディスに持ち込む流れが強まった数年前から、テーラリングは凜々しさや正統派イメージを印象付ける技法としてロングトレンドになりました。性別にとらわれないジェンダーミックスのスタイリングもテーラリング人気を押し上げています。

バックステージでモデルの緊張をほぐすマックイーン氏
© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.

「サヴィル・ロウ」に由来する本格派の技術をウィメンズ服でまとえるのは、〈アレキサンダー・マックイーン〉ならではの特権と言えるでしょう。早くから才能を発揮したリー・アレキサンダー・マックイーン氏は革新的なデザインを相次いで発表し、モードの寵児に。その輝かしい業績は、没後の2011年にニューヨークのメトロポリタン美術館で開催された回顧展がファッション展では過去最高の来場者を集めたことでも証明されています。現在のコレクションにも息づいているのは、英国流の服飾文化を受け継ぎつつ、斬新で野心的な意匠を加える作風です。右腕だったバートン氏は彼の意思を継ぐ存在に。テーラリング技術に裏打ちされたシルエットが優美で端正なドレス(ワンピース)やジャケットはブランドを象徴するウエアになりました。

ショーを前にモデルのフィッティングに励むマックイーン氏
© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.

モチーフではスカル(骸骨)がアイコン的な存在。指輪風に4本の指を通して、しっかり持てる「ナックルリング」のバッグもシグネチャーアイテムとして有名で、指先の所作まできれいに演出してくれます。ロイヤルレディーたちが選ぶことでもわかる正統派の佇まいやエレガンスと、スカルやスパイクスタッズに象徴される反骨精神やロック感を兼ね備えているのは、ほとんど唯一のブランドと映ります。美の多様性や、自分を肯定するポジティブ意識も感じさせますね。流行に左右されない「タイムレス」な装いは、自分らしさを重んじる今のおしゃれマインドを先取り。世代を超えて広く支持を受け続けている理由です。リー・アレキサンダー・マックイーン氏の人物像に迫った『マックイーン:モードの反逆児』というドキュメンタリー映画があるのですが、闇を美へと昇華させる、命を削るような創作過程に胸を打たれました。

『マックイーン:モードの反逆児』Blu-ray&DVD 発売中
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.

『マックイーン:モードの反逆児』Blu-ray&DVD 発売中
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
© 2018 A SALON GALAHAD PRODUCTION. ALL RIGHTS RESERVED.

こだわりの手仕事技に触れる、ドレスアップと特別感に浸れる空間

それでは、〈アレキサンダー・マックイーン〉のスペシャルな空間へお連れしましょう。場所は、松坂屋名古屋店南館1階。西入口から入ってすぐのエリアにあり、2022年11月にオープンしたばかり。ロンドン本店のイメージやブランドのエッセンスが凝縮された、リュクスな雰囲気に仕上がっています。自然への敬意を表し、オークやウォールナットなどの木材を主に用いた、ナチュラルでやわらかい佇まい。大津通に面しているため開放感があり、館内にいながらも自然光を感じながらくつろげる空間です。優雅なリラックス気分でのお買い物に誘ってくれるに違いありません。随所に注ぎ込まれているのは、ブランドの価値観である、妥協のないクラフトマンシップ。天井から吊るされたバタフライとゴブラン織りのタペストリーは圧巻で、思わずしばし見惚れたほど。まるで美術館にいるような気分に誘うタペストリーの先にフィッティングルームがあり、特別な世界へと迎えてもらえます。ここで試着をすることを想像するだけで心が浮き立ちました。

フィッティングルーム内は温もりを感じる円形のしつらえ。吊るされたロープには、いくつものアイテムを掛けられる仕掛けになっていて、タペストリーに囲まれた空間は試着の間も気持ちの高揚を誘います。ガラス越しに自然光がたっぷり差し込む店内は、実際の着用イメージをつかむのにもぴったり。ぜひ皆さんにこのタペストリーの前に立って、服やバッグ、シューズなどを試着体験してもらいたいと感じました。テーラリングが冴えるジャケットやコートのほか、強さとはかなさを併せ持つ大人の女性像を印象づけるドレスがそろいます。身体性を引き立てる、デコルテがきれいなブラウス、ニットなどもお客様のお目当てになりそう。実際に、ドレーピングを施した袖コンシャスのブラウスやテーラードジャケットの造形美に見惚れて、「服の力」をあらためて実感。フィジカル(リアル)で見ることのできる素晴らしさを感じると同時に、それをまとうことによってパワーをもらえそうなときめきに包まれながら過ごしたひとときでした。店内にはバッグやシューズ、アクセサリーも並びます。装いを格上げするバッグを携えて鏡の前に立つと、自然に背筋が伸びるような凛とした心持ちに。

気に入ったバッグをあれこれと試しながら、思いを巡らせ、お気に入りを選ぶのも満ち足りた時間。贅沢な空間で洋服と一緒に全身コーディネートを確かめられるのがうれしいですね。メンズアイテムも充実していて、シャツや、リブ袖のニットトップス、スニーカーなど、ハイエンドとストリートのミックスされたアイテムに男性ファンが多いとのこと。ゆったりした広さがあるのに加え、思い思いに好みのアイテムを見つけやすいラインアップがそろっているので、ご家族、カップル、グループでのご来店も。よそでは出会いにくい、オンリーワンのアイテムを求めて、特別な日、オケージョンでのご利用もされているようです。日常とは異なる、少し特別な世界に連れ出してもらえるのは、このブランドならではの魅力。世界観に通じたショップスタッフから丁寧な接客を受けられるのも、繰り返し訪れるお客様が多い理由でしょう。

女性の美しさと強さを表現した、ブランドを象徴するアイコンたち

〈アレキサンダー・マックイーン〉の数ある代名詞的なアイテムの中から、今回は「ジップディテール シングルブレストジャケット」と「Tread Slick(トレッドスリック) ブーツ」をご案内しましょう。プラウドな女性像を描き出すジャケットは今の時代に求められる「着るエンパワーメント」のよう。ブラックキャンバス製のレースアップブーツは背面にあしらわれた、ロゴ刺繍入りのリボンがアクセントになっています。

確かなテーラリング技で仕立てられたジャケットは凜々しさと品格が同居。胸元に施されたメタリックなジップディテールがいっそうシャープなシルエットを表現しています。クールなスパイスが女性の内なる強さを引き出すかのよう。目を引くショルダーラインとピークラペルはマニッシュな風情。ドラマティックなスカートに合わせれば、上下でメリハリ・コントラストが際立ちます。ハンサムなパンツに合わせてスタイリッシュに着こなす選択肢も。ジャケットの雰囲気を生かして、多彩な着映えに導いてもらえます。

ブーツはオーバーサイズのソールが足元にインパクトを呼び込んでくれます。レッグラインを伸びやかに見せる効果も発揮。スニーカーの軽やかさと、ブーツの重厚感を兼ね備えたモデルで、アッパーはコットン100%です。ブーツを囲むラバーにもブランドロゴが同色で施されたこだわりよう。ラバー製のトゥキャップ付きの爪先が丸みを帯びたラウンドトゥの形で、チャーミングな雰囲気も演出してくれます。あえてかっちりとしたテーラードジャケットや華やかなドレスに引き合わせて、抜け感を漂わせるテイストミックス的な履き方が人気です。

2023-24年秋冬コレクション
テーラリングを軸に、蘭の花のようにあでやかに

パリ・ファッションウィークで発表された2023-24年秋冬ウィメンズコレクションでは、「アナトミー(解剖学)」をテーマに選んで、美しさと力強さを探求した作品を送り出しました。ブランドの持ち味である独創的なカッティングとテーラリングを惜しみなく披露。正統派のドレスやテーラードジャケットを主役に据えながら、常識を裏切るディテールをあちこちに盛り込みました。たとえば、切り裂いたりねじったりといった技法がマテリアルの表情をより深くし、ユニークな立体感も生み出します。程よい素肌見せやフェティッシュなレザー、ドラマティックなラッフル使いであでやかさを引き立てて。ビスチェやコルセットが曲線的なメリハリを引き出し、官能的なボディラインを印象づけます。ゴージャスなアクセサリーやバッグ、シューズもドレスアップに誘う大切なツールに。卓越したテーラリングを生かしつつ、グラマラスな装いに導きました。

今回のコレクションでは、「オーキッド(蘭、ラン)の花」が重要なモチーフになっています。どのような場所でも育ち、力強く成長するオーキッドは強さとか弱さの両面を持つ魅惑的な花。コレクション会場に来場したセレブリティもオーキッドの美を思い思いに装いで表現しました。エル・ファニングさんとエディ・レッドメインさんはブラックを軸に、オーキッドを思わせる赤を取り入れたコーデを披露。ウエストを強調したコートドレスや細タイでのタイドアップでコントラストを利かせています。日本から駆けつけた三吉彩花さんは、絵画のような柄のクロップドジャケットとパンツのセットアップで登場。逆三角形に開いたウエストゾーンからのぞくヘルシーなお腹見せが印象的。トレンドのセンシュアル(官能的)をハンサムに演出しました。ブラックをベースにし、あでやかな赤を取り入れる着こなしは、おめかし気分を高めてくれる上で参考にしたくなりますね。

まとう人を輝かせ、内なる強さや美しさを引き出してくれる〈アレキサンダー・マックイーン〉のクリエーションと世界観。本気のドレスアップを楽しめる心地よさを、松坂屋名古屋店であらためて感じることができました。装うことを通じて、自分らしさを確かめ、伝えるという「まとうエンパワーメント」を自己表現の味方につけたいですね。バッグやシューズ、アクセサリーなどの小物も1点投入するだけでムードが変わります。外に出かける、人と会うといった場面で装うだけではなく、自分を誇らしく感じ、おしゃれがもっと好きになる――。そんな感覚にまで導いてもらえる、素敵な魔法にかかる場所へ、みなさんも足を運んでみませんか。

次回は9月下旬の更新を予定しています。

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【お問い合わせ先】
アレキサンダー・マックイーン
松坂屋名古屋店 南館1階
電話:052-264-2088(直通)
営業時間:10時〜20時

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宮田 理江 RIE MIYATA

ファッション関連企業へのアドバイス(商品開発やトレンド分析、マーケティング、デザイン提案など)、企業・商品ブランディングの協力などの仕事を手がける。連載は、「THE NIKKEI MAGAZINE」「WWD JAPAN .com」「共同通信社」ほか。個人サイト「fashion bible」でもファッション情報を発信。バイヤー、プレスなど、業界での豊富な経験を生かし、自らのテレビ通販ブランドを持つ。Yahoo!ニュース エキスパート。毎日ファッション大賞選考委員。

※掲載品は2023年8月30日時点の取り扱い商品・価格です。商品の内容や価格は変更になる場合がございます。
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