vol.6

ワインエデュケーター×ワインバイヤー
ワインを愛するふたりの本音

中谷利恵|ワインエデュケーター

今回のNAVIGATOR

中谷利恵
ワインエデュケーター

外資系、日系エアライン国際線客室乗務員の経験を活かし、名古屋でワイン講座やチーズ講座の講師を務める。企業への出張ワインセミナー、トークショー、ワイン会などでも活躍中。

中谷利恵

ワインエデュケーター

ワインの本場、豪州、欧州、日系のエアラインで国際線客室乗務員として勤務後、ワイン&チーズエデュケーターとして活躍中の中谷利恵さん。現在は、豊富な海外渡航経験や現地での体験談を交えながら、各国を旅するように楽しく学べるワイン講座などを展開されています。 今回は全3回の連載で、大人のワインの愉しみ方を教えていただきます。

ペアリング、ワイナリー、仕入れ…ワインの奥深さを語りつくす

vol.4・5では、気軽なワインの楽しみ方や、レストランでのソムリエさんへのインタビューなどをご紹介しました。今回は大丸興業株式会社でワインのバイヤーを務める福田善憲さんをゲストにお迎えして、バイヤーの方ならではの興味深いお話や注目のワインペアリングについてお伺いしていきます。

足し算や掛け算でよりおいしく、たのしく。ペアリングのコツ

中谷さん:今回は福田さんとペアリングについてご紹介していきましょう。ワインでいう”ペアリング”とは、ワインとお料理(食材)の組み合わせのこと。ワインやお料理、それぞれを単体で味わうよりも、組み合わせることによって、よりおいしくなるのが”マリアージュ”(フランス語で「結婚」の意味から相性のよい組み合わせのこと)。よいペアリングだと単に足し算だけではなく、おいしさの掛け算になり、感動します。その組み合わせを見つけた時の喜びは格別ですね。

福田さん:ワインを日常的に楽しむという点でも、ペアリングは今、多くの方に注目されていますよね。

中谷さん:近年は日本でもペアリングコースが導入されたレストランが増えたこともあり、ペアリングがより注目されていますね。

福田さん:ワインを日常的に楽しむという点でも、ペアリングは今、多くの方に注目されていますよね。

中谷さん:近年は日本でもペアリングコースが導入されたレストランが増えたこともあり、ペアリングがより注目されていますね。

福田さん:本当に増えましたね。自分オリジナルのペアリングを探すのに凝っているという方もいらっしゃいます。

中谷さん:ワインの楽しみ方としてトレンドになっていますよね。ペアリングのコツは、まずは「同調」、香りや風味、味わい、食感などの方向性を合わせることです。たとえばイチゴやラズベリー、チェリーなどの香りがある赤ワインに、フレッシュなチーズを合わせる際、同じ赤系果実のコンフィチュールを添えるとより相性がよくなります。ピスタチオが入ったホワイトチョコなら、樽の香りが強めで、まったりとボリューム感のあるシャルドネの白ワインを。ピスタチオの香ばしさと油分、ホワイトチョコのクリーミーさに、ワインの木樽の香ばしさ、バターや生クリームのような風味、滑らかなテクスチャーがよく合います。また「同郷」で同じ産地のワインとお料理を合わせるのもいいでしょう。次は「対比」、真逆なものを合わせるのもおすすめです。塩とキャラメルのように、塩気の強い青カビチーズと甘口ワインは王道の組み合わせです。

試してみたくなる、魅惑のペアリング

中谷さん:今回は“方向性を合わせる” 3つのペアリングを試してみましょう。まずは、フレッシュタイプのチーズ×シャンパン。「ブリア・サヴァラン フレ」と「ルイ・ロデレール  コレクション242」のペアリングです。

福田さん:ルイ・ロデレール  コレクション242は、創業年から242回目のアッサンブラージュ(ワインの原酒を混ぜ合わせるという伝統的なワイン造りの技法のこと)という意味なんです。リザーヴワインによる熟成感と収穫年の個性が調和した複雑味が感じられる1本です。

中谷さん:新しくなったスタンダード・キュヴェですね。ブリア・サヴァランは、クリーム分を添加したチーズで、濃厚なレアチーズケーキのような味わい。フレッシュタイプのチーズの酸味に、より酸味の高いシャンパン、またチーズとシャンパンのクリーミーなテクスチャーで方向性を合わせています。その一方で、チーズの濃厚な脂肪分をシャンパンの酸味や心地良い炭酸ガスのシュワシュワ感で、すっきりと味わうことができます。ブリア・サヴァランは高級チーズなので、スパークリングワインではなく、ぜひシャンパンを。食材とワインの品格を合わせるのもコツの一つです。

〈D&M CAVE〉ルイ・ロデレール  コレクション242 750ml 税込8,250円

ブリア・サヴァラン×ルイ・ロデレール  コレクション242

中谷さん:次のペアリングは、栗のテリーヌ×甘口の白ワイン。足立音衛門の「栗のテリーヌ」に貴腐ワインの「シャトー・クーテ」を合わせます。3種類の栗がたっぷり入っていて、発酵バターの生地に和三盆の甘みがあるため、より凝縮した甘味のソーテルヌのワインを選びました。貴腐の影響を受けた甘口ワインで、熟した桃やアプリコット、カリン、はちみつ、オレンジマーマレードのような香りや風味があり、フルボディ。バターを使い、栗がゴロゴロ入ってずっしり重量感のあるテリーヌと、重さも方向性を合わせています。口の中で栗の甘露煮やお正月の栗きんとんのような味わいを楽しんでいただけるかと思います。

福田さん:シャトー・クーテのようなフランス・ボルドーの貴腐ワインは極甘口なので、家飲みでは“癒し系ワイン”として人気です。ゆったりと過ごしたいときにぴったりですね。

〈足立音衛門〉栗のテリーヌ 1本 税込4,989円
〈D&M CAVE〉シャトー・クーテ2004 税込6,600円

栗のテリーヌ×シャトー・クーテ

中谷さん:次のペアリングは、栗のテリーヌ×甘口の白ワイン。足立音衛門の「栗のテリーヌ」に貴腐ワインの「シャトー・クーテ」を合わせます。3種類の栗がたっぷり入っていて、発酵バターの生地に和三盆の甘みがあるため、より凝縮した甘味のソーテルヌのワインを選びました。貴腐の影響を受けた甘口ワインで、熟した桃やアプリコット、カリン、はちみつ、オレンジマーマレードのような香りや風味があり、フルボディ。バターを使い、栗がゴロゴロ入ってずっしり重量感のあるテリーヌと、重さも方向性を合わせています。口の中で栗の甘露煮やお正月の栗きんとんのような味わいを楽しんでいただけるかと思います。

福田さん:シャトー・クーテのようなフランス・ボルドーの貴腐ワインは極甘口なので、家飲みでは“癒し系ワイン”として人気です。ゆったりと過ごしたいときにぴったりですね。

〈足立音衛門〉栗のテリーヌ 1本 税込4,989円 〈D&M CAVE〉シャトー・クーテ2004 税込6,600円


中谷さん:3つ目のペアリングは、関西風おでん×甲州種の白ワイン。おでんにワイン?と思われるかもしれませんが、よく合いますよ!なだ万のおでんは、かつお節と昆布の上品なお出汁の風味。その風味や味わいを損わないような、なるべくニュートラルなワインで、お出汁の旨味に寄り添うものを考えました。甲州はいろいろなタイプのワインがありますが、上品な旨味のある「ルバイヤート甲州シュール・リー」をセレクト。こちらはシュール・リーと呼ばれる製法で造られ、発酵が終わっても澱と一緒にワインを熟成させるため、お出汁のような旨味やコクが感じられます。甲州種のワインには和の柑橘の香りがあるので、ポン酢でいただくようなお鍋やふぐ料理など和食全般にぴったり。こちらのおでんに、少し柚子胡椒を添えてもよく合いますよ!

福田さん:ルバイヤート甲州シュール・リーは、弊社の輸入ワインの元バイヤーの小谷シニアソムリエから紹介され、直接取引しています。寿司、刺身、天ぷら、生牡蠣、魚のカルパッチョ、塩をきかせた焼き魚などにぴったりで、家飲みには欠かせない白ワインです。

〈なだ万厨房〉おでん 1袋(具材数8品:海老真丈/魚真丈/大根/玉子/結び白滝/昆布/ごぼう巻/蒟蒻) 税込1,080 円
〈D&M CAVE〉丸藤葡萄酒工業 ルバイヤート甲州シュール・リー 2019 720ml 税込2,035円

おでん×ルバイヤート甲州シュール・リー

ワインを深く楽しむには?

中谷さん:ペアリングのコツについてご紹介しましたが、福田さんがワインのお取引やご紹介する上で、大切にされていることは何でしょうか?やはり造り手さんと直接お会いしたり、ワイナリーを訪問したりなどされますか?

福田さん:ワイナリーにはよく伺います。弊社直輸入のフランス・ブルゴーニュ・ピュリニ・モンラッシェ村の「ドメーヌ ビズコット」という生産者は、シャルドネを使用した白ワインのエキスパートなのですが、元ラガーマンが大きな身体で繊細なワインを産み出します。ピュリニ・モンラッシェ村は地下水が豊富で、そこからできるワインもミネラル感たっぷりで飲み飽きないのが特徴。葡萄が完熟してから手摘みしますので、柑橘系と蜜の香りがする素晴らしい味わいです。

中谷さん:素敵ですね!ワインの勉強を始めた頃、ワイン業界の重鎮マイケル・ブロードベント氏の言葉で、“できる限りたくさんのワイン産地を訪れること。慌ただしい訪問でも、訪れないよりはずっといい”というのを知りました。現地に出かけて、たとえ1時間でもワイナリーやぶどう畑のその場所の気温、湿度、風や土を感じるのは、何事にも代えがたい体験です。醸造の工程を間近に直接見るのと、本で見るのとでは理解力が全く異なりますよね。

福田さん:そのとおりだと思います。現地を体感することで、その後のワインの味わい方も変わってきますよね。

中谷さん:ワイナリーでのテイスティングはもちろんですが、レストランや宿泊施設が併設されているワイナリーでは、現地でお食事と一緒にワインを楽しんだり、時間が許せば宿泊したりするのが私のおすすめです!国内でもワインツーリズムが盛んになってきましたので、週末日帰りでも気軽に楽しめますよ。

左:タイの「モンスーン・ヴァレー」にて、ぶどうを足で潰す体験をしました
右:「モンスーン・ヴァレー」のぶどう畑でテイスティング


バイヤーとして、お客様にご納得いただけるワインを仕入れる

福田さん:ワイン生産者は1年1年が勝負です。天候や土壌といった自然条件にかなり左右されますので、毎年違う条件で造られた毎年違うワインをお客様にどう伝えながら購入していただくのかということを、バイヤーとして常に考えています。
また、お客様の欲しいものを安心・安全なルートで仕入れをすることが重要ですので、日頃から業界で定評のあるお取引先からのみ仕入れをすることにしているほか、お客様の欲しいものを取引先にリクエストして探すようにしています。それには日頃アンテナを張りながら情報収集するしかないですね。

中谷さん:地球温暖化による気候変動で栽培されるぶどう品種が変わり、消費者の嗜好の変化でワインのスタイルも変わってきていますよね。福田さんのおっしゃる通り、私もアンテナを張って情報を集めたり、社会のトレンドにも感覚を研ぎ澄ましたりしていく必要性を日々感じています。 福田さんがバイヤーとして、これまでに企画されたワインセットで、一番反響があったものはどのようなものでしたか?

「カレラ」創業者のジョシュ・ジェンセン氏と一緒に。写真左が福田さん

福田さん:ワインの価格はさまざまですが、高級ワインは需要がありますね。ヴィンテージの違うシャトームートン・ロートシルトの59本セット(当時の価格:12,000,000円)は特に人気でした。高級ワインのご購入の動機で多いのは、①お子様、お孫様の生まれ年のワイン②一度は飲んでみたい憧れのワインを手に入れたい③贈り物の順です。

中谷さん:お子様やお孫様の生まれた年のワインを購入されて、20歳のお誕生日に開けられるというのは、私もワインのセレクトに携わった経験がありますが、本当に素敵ですよね。最後に、福田さんにとってワインとはどんな存在ですか?

福田さん:私にとってワインは、飲み手や贈り主を笑顔にするもの。バイヤーとしても、ワインラバーとしても“たくさんの人に楽しんでほしい飲み物”ですね。

名古屋・栄のイタリアンMORRIS(モリス)にて撮影

オリジナルの楽しみ方を見つける

ご自宅でのワインの楽しみ方、ペアリング、ワイナリー訪問などをご紹介してきました。ハードルが少し高いように思われがちなワインの世界、皆様が興味あるテーマを決めて、もっと気軽に楽しんでいただけたらと思っています。


気軽に試せるいろいろな楽しみ方

おいしいものを食べに出かけることやご旅行がお好きな方には、各国料理の専門店で、その国のお料理とその国のワインを合わせて楽しむのもおすすめです!トルコワイン、チュニジアワイン、インドワイン、タイワイン、中国ワインなど、あまりワインのイメージのない国々でも、各国のワインは、その国の郷土料理と相性よく造られているので、ぜひ”お料理とワインで世界旅行”を楽しんではいかがでしょうか?近年はロシアワインやルーマニアワインなども品質の高さに驚かされます。ご旅行好きのご友人たちと日本で気軽に試してみてくださいね。

タイ料理屋さんにて行ったタイワイン会

また、何かテーマを決めて、仲間たちと半年から1年続けるのもおすすめです。私は山本昭彦氏の『死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン』という本に書かれているシャンパンをすべて飲んでみたいという夢があり、ご賛同・ご協力をいただいて、数年前に「死ぬまでに飲みたい30本のシャンパンを制覇する会」を企画、実現することが叶いました。ワインラバーの皆様と毎月5本飲み、半年間で全30本を達成できたことは、とても貴重な経験となりました。

左:『死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン』とシャンパンボトル型のケーキ
右:「死ぬまでに飲みたい30本のシャンパンを制覇する会」30本目の最後のシャンパーニュ

左:『死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン』とシャンパンボトル型のケーキ
右:「死ぬまでに飲みたい30本のシャンパンを制覇する会」30本目の最後のシャンパーニュ

特別な日のワイン、憧れのワイン

特別な日に飲むワインがあるというのもまた素敵だと思います。「バースデー・ヴィンテージ」(生まれ年)のワインは、感慨深いですし、何歳になっても嬉しいですね。私のバースデー・ヴィンテージは、決して当たり年ではないのですが、それでも自分と同じ年月を重ねてきたワインへの想いは格別。毎年“あ、まだ飲めた!まだ元気だった!”と自分を鼓舞してくれる存在です。また、自分の人生の節目になったヴィンテージのワインを飲むと、懐かしい思い出がよみがえってきます。

エアライン退職時に購入した入社ヴィンテージの「オーパス・ワン 1997」

自分にとって特別なワインやデザインの素敵なシャンパンの空きボトル数本は保管していて、自宅でスタンドのライトとして使っているんです!気分に合わせてワインボトルを変えて、楽しんでいます。

左:エアライン退職時に購入した入社ヴィンテージの「オーパス・ワン 1997」
右:ランプシェードの生地とブレードを選んで作ったワインボトルのライト

ランプシェードの生地とブレードを選んで作ったワインボトルのライト

一方で、“憧れのワイン”というのもあります。飲んでみたいのは、ソーテルヌの最高峰「シャトー・ディケム」のバースデー・ヴィンテージでしょうか。こちらのワインは何度か飲んだことはありますが、自分と同じ年月が経過したものを飲んでみたいですね。また、高額ワインとして名高い「ロマネ・コンティ」、若いヴィンテージを飲んだことがあるのですが、ワインラバーの皆様が“球体のようなワイン”と称される、飲み頃の状態のすべてのバランスが整った球体のような究極のワイン、というのを死ぬまでに一度体感してみたいですね。

ワインは人と人とを繋ぐ飲み物

私はワインの本場、豪州や欧州のエアラインで働き、現地でもワインを飲んできましたが、ワインを傾ける場には、友人やクルー仲間、旅行先で出逢った人々など、いつも「人」が必ず存在していました。ワインは当て字で「輪飲」や「和飲」と漢字で書かれることがありますが、本当に”仲間と輪になって飲む”お酒であり、人々と楽しみ”和む”お酒だと実感しています。カジュアルな価格帯のワインであっても、気の合う仲間と一緒に飲めばおいしく、楽しく、笑顔で過ごせます。

また、海外のワイン産地を訪問して、ぶどう畑を眺めながらワインを飲んだ光景や、バルのカウンターにてコップで飲んだワインでも、現地の方々と会話をしながら楽しんだ夜は忘れがたく、そうした経験は私にとって、貴重な財産ですね。私の場合、空の世界からワインの世界へ変わった経緯も、ワインがとりもつ人とのご縁でしたし、これまでのワインに関するお仕事はすべて、ご縁をいただいてのご紹介なので、本当にありがたい限りです。ワインは、やはり”人と人とを繋ぐ飲み物”ですね。


お料理と一緒に楽しむ、テーマで楽しむ、仲間とともに楽しむ…。ワインは本当にいろいろな楽しみ方のできる飲み物です。ぜひ、自分だけの楽しみ方を見つけてみてくださいね。

グルメvol.4~6の3回にわたってのワインの連載、いかがでしたでしょうか?
「おうちワイン」をはじめ、ペアリング、その他のさまざまな楽しみ方をご紹介いたしました。たとえばワインボトルのおしゃれなデザインやお好きなモチーフのラベルなど、ご興味を持たれたところから気軽にワインの世界に一歩足を踏み入れてみませんか?きっと想像以上に楽しい世界が広がっていくのではないでしょうか?これからの皆様のワインライフが素敵なものとなりますように。

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中谷利恵 RIE NAKATANI

国際線客室乗務員出身のワインエデュケーター。キャプランワインアカデミーWSET®認定講師。日本ソムリエ協会認定シニアソムリエ、チーズプロフェッショナル協会認定チーズプロフェッショナル、WSET®Level3など多彩な資格を持ち、独自の視点でワインの楽しさや奥深さを伝えている。中日文化センター講師、コマンドリー・ド・ボルドー コマンドゥール。

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