香り vol.3
奥深い香りを“聞く”香の世界に触れる


大橋香|le bois Phytotherapy School
サテライトスクール 講師

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大橋香
le bois Phytotherapy School サテライトスクール 講師

愛知県生まれ。
le bois Phytotherapy School サテライトスクールの講師を務める。

大橋香

le bois Phytotherapy School サテライトスクール講師

フィトテラピースクールで学ばれ、2022年2月に開校した、東海地区で初となるle bois Phytotherapy School サテライトスクールの講師を務めている大橋香さん。嗅覚学、生理学も学び、香りが心と体に与える影響についても詳しく、アロマテラピー検定1級を保持。植物をモチーフにした写真やペーパーコラージュなどの作品を制作する活動を行うフィトアーティストとしても活躍中です。
全3回の連載では「香り」をテーマに、気分やシーンで選ぶアロマや香水、香道について教えていただきます。

香りを楽しむ日本の伝統文化「香道」

茶道・華道・能などとともに中世に誕生し、贅を極めた芸道として発展してきた「香道」。東南アジア産の香木を研ぎ澄まされた感性で判別する、独自の世界を構築しています。今回は名古屋市の無形文化財でもある「志野流香道」にて香木の香りを鑑賞する「聞香」を体験。若宗匠の蜂谷宗苾さんに、香道の魅力を伺いました。


偶然の産物「香木」を使った独特の文化

大橋さん:「香道」という世界があるのは知っていたのですが、今回初めて触れます。とても歴史のある芸道だと伺いました。

蜂谷さん:志野流香道は、応仁の乱後に室町八代将軍足利義政公のもと、銀閣寺でスタートを切りました。それから20代、500年にわたりその伝統と精神を今も継承しております。

大橋さん:香道ではどのようなことをするのでしょう?

蜂谷さん:普段のお稽古では「組香」と呼ばれる香木の香りを聞き当てる遊びを行います。いくつかの違う香りの香木を使用し、源氏物語や和歌、漢詩、花鳥風月、有職故実などをテーマに、10名前後でゆったり過ごします。

香木や香道具を収める香箪笥

大橋さん:非日常な体験ができそうですね。香木というのはどういったものなのでしょうか?

蜂谷さん:私たちが使用する香木とは、心地よい芳香を持つ木材のこと。東南アジア産の沈丁花科に属する木の傷口から、数十年から百年以上かけてできる自然界のエネルギー・治癒力の結晶です。しかも、その一つの香りが生成される過程で人間の手は一切加わっておらず、自然の摂理の中、いくつもの偶然が重なり合って生まれ落ちます。近年、父や私の新たな活動として、子々孫々が同じように香りを楽しめるようにベトナムでの植林活動を始めました。

大橋さん:なるほど、偶然の産物である香木を大切にしながら長い間絶やすことなく守り続けてきた貴重な伝統文化なのですね。

志野流に代々伝わる沈水香木。小さく割って使用する

蜂谷宗苾さん

室町時代より、20代500年にわたり香道と茶道を継承してきた志野流現家元20世幽光斎宗玄の嫡男。大徳寺530世住持泉田玉堂老大師との一対一での禅の修行を終え、2004年玉堂老大師より軒号「一枝軒」宗名「宗苾」を拝受、21世家元継承者となる。現在は、次期家元として全国教場及び海外支部での教授、幼稚園から大学での講演を開催し、香道という日本独自の香り文化を通し各国との交流を図っている。
一方で、香道を日本における重要無形文化財登録、ユネスコの無形文化遺産登録、また、稀少な香木を後世に遺していくためベトナムでの植林活動や、幼児教育やストレス社会に、香木の香りがどう関わっていけるかの研究を”KODO LABO”として行なっている。

文化庁海外文化交流使/一般社団法人日本文化継承者協会代表理事/一般財団法人ロートこどもみらい財団理事/一般社団法人日本ソムリエ協会名誉ソムリエ/フランス調香師協会名誉会員

感覚を研ぎ澄まして香りを“聞く”

大橋さん:香道では香りを“聞く”と言いますよね。これには理由があるのでしょうか?

蜂谷さん:もともと中国では、「聞」という漢字に嗅覚含め五感で感じ取るという意味が入っていたようです。自然界の中で長い年月をかけて育まれた香木の香りと、自らの心を通い合わせる。それによって自己の成長を図るのです。

大橋さん:難しそうですね。香道を体験したことがない方でもできるのでしょうか?

蜂谷さん:山登りにしても人生にしても、誰しもが初めの一歩があるので、できない人はいないと思います。普通に生活しているだけでは判別できないような香りの違いに気づくことができるようになっていきますよ。この社会で生きていれば、自分の思った通りにいかないことも多々あると思いますが、時には立ち止まって、視線を携帯電話から自然界の微細な変化に向けてみるのもいいでしょう。

大橋さん:聞き分ける力をじっくりと身に着けていくのが大切なのですね。

蜂谷さん:産業革命以降、私たちは物質に捉われて生きてきました。斯くいう私もスマホが手離せません。一方でこのままで良いのかと自問自答する毎日です。情報が溢れるほど、便利になっているはずが逆に生きづらくなり、世界は混沌に向かっている。私たちは、日々香木と向き合い、微かな香りの違いを判別しています。その繰り返しにより、今をどう生きるかを学んでいきます。


一人ひとりの思い出とつながる聞香体験

香道で香りを聞く席のことを「聞香席」といいます。聞香に使う道具や流れなどの解説を伺いながら、香りを聞く体験を進めていきます。

左が香炉、奥が志野袋、右が火道具。それぞれの道具を置く位置は細かく定められている

香りから広がる思い出に浸る不思議な時間

聞香では、香炉を使用して香木に熱を加え、香りを出していきます。香炉に香炉灰を入れ、その中央に火をおこした香炭団を埋め込み、香炉を整えたら早速香りを聞いていきます。香木が入っている志野袋は、紐で季節の花を表すのだとか。今回は桜の花。志野袋から出した香木を雲母板の上に置くと、香りが広がり始めます。

香炉灰は山の形に整える

志野袋の中には、香包に包まれた香木が入っている

小さな雲母板の上に香木をそっと置く

まずは左手に香炉を乗せ、親指を香炉の縁にしっかりと掛けて持ちます。そして自然に対して感謝の一礼を忘れずに。香炉の正面を自分から遠ざけるように反時計回りに回します。灰山には等間隔に線が引かれていますが、その線が一番太い場所が正面とのこと。香炉を水平に持って右手で山を作って香りを溜め、ゆっくりと3回聞きます。終わったら、香炉を時計回りに回して隣の人との間に置くのだそう。

実際に香りを聞いてみて驚きました。心に浮かぶ景色があったからです。とても幸せな記憶が思い起こされて、思わず涙が出ました。蜂谷さんによると、香りを聞いて涙する方もときどきいらっしゃるのだそう。これは香木のもっている力。すべての香木はそれぞれの方の思い出とつながるんですね。時間旅行をしたような不思議な体験でした。

香道の原点は、香りそのものを楽しむこと

香道は礼儀作法や立居振舞などの約束事も多い世界。聞香では「香り」「風」「音」を持ち込まないという点に気をつけましょう。1〜2時間無言で香りを聞くという体験は、独特なもの。すっきりとした気分で終わることができますよ。

若宗匠が語る香道への熱い想いにじっくりと耳を傾ける

難解な芸道というイメージのある香道ですが、その原点は何よりも“香りそのものを楽しむこと”にあります。志野流香道では、香りでより多くの方を笑顔にしたい、香道に触れていただきたいという想いで、オリジナルのお香の制作や講演会、展覧会の実施など新しい香道の形を追求しているところなのだそう。現在は、東京都港区の増上寺にて特別展「香道の世界」を開催中です。ぜひ一度ご覧になってはいかがでしょうか。

特別展 香道の世界 ~志野流香道五〇〇年の継承~ 
4月16日(土)→6月26日(日) 
増上寺宝物展示室(大殿地下1階)

⇒詳細はこちら(外部サイトに遷移します)

松坂屋名古屋店では、おうち時間で聞香を試してみたいという方におすすめの香木を取りそろえています。香道具を一式準備し、時間をかけて香りを聞いてみましょう。新しい体験に心が弾むはずですよ。

〈鳩居堂〉極品角割 沈香 3g 税込13,200円[松坂屋本館8階]

東南アジアの熱帯雨林を産地とする香木。お寺を想起させるような香り

〈鳩居堂〉極品角割 沈香 3g 税込13,200円[松坂屋本館8階]

暮らしに和の香りを取り入れよう

落ち着いた和の香りは、暮らしに安らぎを与える香り。本格的なお香から普段あまりお香を焚かないという方にも試しやすいさまざまなタイプのお香までご提案します。身近な“香”の世界に触れてみましょう。

直接火をつけるタイプのお香にはお線香・スティックタイプや円錐型、渦巻き型などがあります。一番ポピュラーなお香であるお線香・スティックタイプは燃焼時間が長さに比例するため、長いものは折るなどして調整できるのがポイント。香りが均一に広がりやすいのが特徴です。リラックスタイムや来客の前などに活用してみましょう。

左:〈松栄堂〉芳輪 二条 スティック型 20本入り(簡易香立付き)税込660円[松坂屋本館6階 仏具・線香売場内]

右:〈鳩居堂〉お香セット 六種の薫物(スティック) 税込2,750円[松坂屋本館8階]

※画像の香立は、付属の香立とは別の商品です

白檀をベースにした伝統的な香りに華やかさをプラス

〈松栄堂〉芳輪 二条 スティック型 20本入り(簡易香立付き)税込660円[松坂屋本館6階 仏具・線香売場内]※画像の香立は、付属の香立とは別の商品です

三条実美公伝授の名香6種を手軽に楽しめる

〈鳩居堂〉お香セット 六種の薫物(スティック)税込2,750円[松坂屋本館8階]※画像の香立は、付属の香立とは別の商品です

3種の香りのスティック型お香と香皿、香立が入ったセット

〈松栄堂〉
お香・香皿セット 税込5,225円[松坂屋本館6階 仏具・線香売場内]
セット内容:芳輪 二条 スティック型(20本入り)、堀川 スティック型(20本入り)、天平 スティック型(20本入り)、四方香皿、つまみ香立、詰合せ箱

〈鳩居堂〉三種焚 税込4,180円[松坂屋本館8階]

〈鳩居堂〉香立 ハト 税込880円[松坂屋本館8階]

〈鳩居堂〉
左:三種焚 税込4,180円
右:香立 ハト 税込880円
[松坂屋本館8階]

円錐型は、下にいくほど燃える面積が広がるため、香りも強くなっていきます。短時間で香らせたいときにおすすめのタイプです。気分を変えたいときなどに使うのもよいでしょう。また、灰が散らばりにくいのもメリットです。

左:〈鳩居堂〉香木の香り 三種の詰め合わせ 円錐香 税込2,750円[松坂屋本館8階]

渦巻型は燃焼時間が長いため、広いお部屋や廊下、玄関などが適しています。お客様をおもてなしする際などにもおすすめです。途中で消したい場合は金属製のクリップで挟みましょう。

右:〈松栄堂〉堀川 渦巻き型 専用香台付き 税込3,080円[松坂屋本館6階 仏具・線香売場内]

玄妙な香りの伽羅・爽やかで甘みのある白檀・上品な香りの沈香の3種のお香と香立のセット

〈鳩居堂〉香木の香り 三種の詰め合わせ 円錐香 税込2,750円[松坂屋本館8階]

渦巻型は燃焼時間が長いため、広いお部屋や廊下、玄関などが適しています。お客様をおもてなしする際などにもおすすめです。途中で消したい場合は金属製のクリップで挟みましょう。

白檀の甘みを強調したまろやかな香り

〈松栄堂〉堀川 渦巻き型 専用香台付き 税込3,080円[松坂屋本館6階 仏具・線香売場内]

そのまま香りを楽しめるアイテムには、におい袋や文香などがあります。におい袋はたんすやクローゼットに入れて衣類に香り付けができるほか、寝室、玄関に香りを広げたり、お手洗いの芳香にしたりとさまざまな使い方ができます。

〈鳩居堂〉にほい袋 蝶印 各・税込880円[松坂屋本館8階]

上質な和風香水のふくよかな香り

〈鳩居堂〉にほい袋 蝶印 各・税込880円[松坂屋本館8階]

文香とは、手紙と一緒に香りを送ることのできるにおい袋のこと。封書や名刺入れに入れる、本の栞として活用するなど、持ち運べる和の香りとしてもおすすめです。

〈鳩居堂〉文香 花の文香 税込330円[松坂屋本館8階]

今回は、香道の魅力や暮らしに取り入れやすいお香を紹介しました。普段なかなか触れる機会の少ない和の香りですが、日本人の心に響く香りなので一度触れてみるとその魅力に気づくはずです。ぜひ暮らしに取り入れてみてくださいね。

やさしい和の香りが特長の文香

〈鳩居堂〉文香 花の文香 税込330円[松坂屋本館8階]

今回は、香道の魅力や暮らしに取り入れやすいお香を紹介しました。普段なかなか触れる機会の少ない和の香りですが、日本人の心に響く香りなので一度触れてみるとその魅力に気づくはずです。ぜひ暮らしに取り入れてみてくださいね。

3回にわたっての「香り」記事の連載、いかがでしたでしょうか?
アロマ、香水、和の香りと、さまざまな香りをご紹介しました。自分の心を開放したり、自分の見せ方を変えられたり、自然を感じられたり。香りには言い尽くせない魅力がたくさんあります。
皆様の毎日がより楽しく、健やかになるような香りとの出会いを願っています。

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大橋香 KAORI OHASHI

愛知県生まれ。le bois Phytotherapy Schoolサテライトスクールの講師を務めている。「私はワタシで生きていく。」をテーマに「人生100年時代」を生き抜く女性たちが自分自身を慈しみ、健やかで明るく、生き生きと暮らせるようサポート。目指すは一人一人の暮らしに寄り添う「かかりつけのセラピスト」。