アルクールは光を纏い
静かな煌きの時を創りだす

文/近藤マリコ
2021/12/10

Baccarat

アルクール

仄暗さと共鳴する
バカラの美しさ

バカラと聞けば誰もが、クリスタルガラスの煌びやかな輝きを想像するだろう。他のガラス製品が輝くためには多くの光を必要とするのに、なぜかバカラは、すこし仄暗い場所の方がより美しく煌くのだ。バカラには光を吸着する力があるのではないかと思うほどである。100年前に、バカラに魅せられた茶道具の美術商が、はじめて日本にバカラを輸入し、懐石料理の器や茶道具に見立てて使ったことはつとに有名だ。茶室というのは今も100年前も暗い空間というのが前提である。勝手な推測なのでおこがましいが、その美術商は暗い茶室で光を吸着して輝くバカラに、茶の湯ならではの美を表現したかったのではないかと思う。だからか、今でも京都・祇園あたりの日本料理のお店に行くと、驚くほど年代物のオールドバカラが登場する。大体オールドバカラが出てくるような京都のお店は仄暗いのである。先人に倣ってバカラを使いこなすことこそ、店主の趣味の良さが表現されるということだろうか。

深いフラットカットは、遠くから見てもすぐにアルクールの輝きとわかるほどの佇まい。加えてクリスタルのなめらかな質感もバカラだけのもの。

アルクール侯爵にふさわしい
高貴な重厚感

バカラの歴史はここで説明する必要ないほどによく知られているが、ここでは、バカラのアイコンとなっているアルクールについて記していこう。誕生から200年近い歳月が過ぎたアルクールは、ナポレオン1世がオーダーしたものを原点として、1825年にアルクール侯爵が娘の婚礼のために依頼したグラスに遡る。アルクールとは、侯爵の名前なのである。その後、法皇ベネディクト15世によってバチカンで選ばれたり、フランス大統領によってヴェルサイユ宮殿・鏡の間での晩餐会で使われたり。多くの王侯貴族やセレブリティーが、アルクールに紋章を入れて使っている。
今やバカラの代名詞といってもいいほどに知られているアルクールだが、なによりの特徴はシンプルなフラットカットである。ガラスでありながら、そのスムージーな質感からか、どこかやわらかささえ感じる。タンブラーは重厚感そのもので、バカラの特徴である下部の重心感が手におさまった時、実に心地よい。ブランディやスコッチをストレートで、もしくはロックでいただく時の持ち重りのする感覚が、いかにもバカラらしく、これがブランドの代名詞といわれる由縁が実感できる。
筆者はアルクールのワイングラスを愛用しているが、何を隠そう、ワイングラスにスコッチを注いで毎夜愉しんでいる。なぜワイングラスにスコッチかというと、タンブラーに入れるほどの量が筆者には多すぎて、ワイングラスに少量ぐらいがちょうど良いのである。そしてもうひとつの理由は、茶色の液体が入ったアルクールのワイングラスが、暗くした部屋の照明を一身に集めた時、アルクールのフラットカットがどの角度から見ても実に美しく、お酒をより美味しくしてくれるからなのだ。真上から見たり、横から眺めたり、グラスを傾けたりして、光のゆくえを探しながらスコッチを飲む時の、なんと愉しいことか。アルクールは、独酌の時間を何倍も味わい深くしてくれる貴重なグラスなのだ。今年のクリスマスには、友が来た時にともに愉しめるように、アルクールのワイングラスを買い足そうと思っている。

ナポレオン1世が遠征に持ち歩く時に堅牢でエレガントなグラスをオーダーしたことに端を発するアルクールシリーズ。タンブラーはそのルーツをもっともシンプルに美しく表現しているといえる。

アルクールのクリスタルの輝きは、どんな照明のもとでもその世界観を映えさせる。アルクールシリーズがテーブルにあれば、たとえそこに花やオーナメントがなくても十分な存在感を醸す。

〈バカラ〉

アルクール ワイングラス

税込33,000円

アルクール タンブラー

税込30,800円

/北館GENTA5階

※数に限りがございますので、品切れの際はご了承ください。

コピーライター

近藤マリコ

Mariko Kondou

コピーライター、プランナー、コラムニスト。日本の古いコト・ヒト・モノに囲まれて育ち、その反動でフランス一辺倒となり渡仏を繰り返し、現在に至る。工芸・着物・伝統芸能、職人の世界観、現代アートや芸術全般、日仏文化比較、紀行文などのテーマを主に手掛ける。やっとかめ文化祭ディレクター。