インタビュー
2018.02.27
− 特集 – 陶芸家 杉浦 康益
素材と技と炎が造る、生命力あふれる造形美
[「陶の博物誌 彩り」第四回 杉浦康益展
2018年3月21日(水・祝)→27日(火)開催
第一画廊・第二画廊]
杉浦康益先生は、焼き物で精巧な花や木、石などを造る、独自のコンセプトを持ったアーティスト。
自然のダイナミックなエネルギーや生命の力強さを、今までにない新しい焼き物の形で魅せてくれます。最近は台湾やイタリア・ミラノのギャラリーとの取引が増え、日本に作品がほとんど残らない状態だとか。今回は作品に込められた想いや、「陶の博物誌 彩り」第四回 杉浦康益展のテーマなどについてうかがいました。
表現したいものは変わっても、テーマはいつも「自然」でした
杉浦先生が作品の柱としているのが、「陶の石」「陶の木立」「陶の博物誌」という3つのシリーズ。順を追って発表されたものですが、モチーフは一貫して「自然のもの」となっています。
「幼い頃から自然に囲まれて育ったので、いつも身近な存在だったテーマが“自然”でした。ただ自分自身の成長とともに考え方や感じ方が変わっていくなかで、表現したいことが変化していきました。“陶の石”は石の恒久性への憧れを、“陶の木立”は防風林をイメージしたスケール感を表現しています」
先生の作品の原点と言えるのが「陶の石」シリーズ。東京藝術大学在学時に受けた「焼き物は石である」という教えにインスピレーションを受け、河原の石を成形したオブジェ陶を作成したのが始まりです。続いて手がけた「陶の木立」シリーズは、陶製の柱やブロックを無数に積み上げたインスタレーション作品。そして2000年の個展では、貝や植物をモチーフにした「陶の博物誌」シリーズが生まれました。
はかない花の中に、強い生命のエネルギーがあった
「陶の博物誌」シリーズにはもともと花のモチーフはありませんでしたが、ある日をきっかけに花が加わります。
「1984年に神奈川県の真鶴の山に移り住んでアトリエを構え、周囲で好きな花木や草花を育て始めました。しかし花の生命感に気づかされたのは、それから20年を経てからです」
ある時、花の細部をルーペでのぞき見て、とても細かな構造に感銘を受けます。自然に造られた花びらやがくなどの美しい形。小さな花の中にある驚くほどのしべの数。それらを丁寧に分解して観察して、スケールこそ大きいものの実物に忠実に再現することで、「はかない花の中にみた強いエネルギー」を表現しようと思ったのです。
花はまさに焼き物で表現するためにある
花を陶器に描くのではなく、花そのものを焼き物で造ることにしたのも、自然によって造られた形に対する畏敬の念があったからでした。
「花をモチーフに選んだのは、一般的な花の美しさを表現しようと思ったからではありません。花の持っているフォルムや多様性、花芯の構造の精緻さを表現したかったんです。焼き物は、素材、技術、火をフルに使って表現できる手段。そういった意味では、花の造形は焼き物のためにあると言っても過言ではないと思います」
絵と違い、焼くという工程がある焼き物は、炎の動きによって花びらやしべの形がわずかに変わります。自然の物である花を表現するために、偶然に起こる変化も積極的に取り入れているのです。
「彩り」と「ゆとり」が醸し出す、新たな魅力
最近の作品では、新たな釉薬を取り入れたものも。そこにはどんな想いの変化があるのでしょうか。
「これまでは花の持つ存在感・エネルギーにこだわり、あえてシンプルな色にしていました。最近はそこに雰囲気を出したいと思うようになり、少し彩りをそえています」
色を最小限に抑えることで、その造形が持つ力を際立たせてきたこれまでの作品。そこに彩りを加えられた新たな作品には、花としての美しさがより印象的に感じられます。
今回の展覧会でも、これまでとは違った心持ちがあるそうです。
「今回の展覧会では“ゆるさ”をテーマにしています。いままでは“ただ造る”という意気込みで魅せてきましたが、もう少しゆとりを持ちたいなと思います」
ちょっとした“ゆるさ”を持った作品からは、艶やかな色気のようなものを感じるもの。その色気が見るものの目を惹き付けることでしょう。鋭い観察によって得られたインスピレーションと、精密な作陶の技術が積み重なって、ひとつの到達点をみせる作品の数々を、ぜひその目でご覧ください。
プロフィール
「陶の博物誌 彩り」第四回 杉浦康益展
2018年3月21日(水・祝)→27日(火)開催
第一画廊・第二画廊