「百貨店を通して豊かな文化を地域に還元する」を目的に2017年に連携を開始した松坂屋名古屋店と名古屋大学。このページでは、SDGsをテーマとした“みらいメッセージ”をはじめ、科学や社会ついてのさまざまな活動をご紹介することで、皆様に“新しい未来”をお届けしています。

私たちに、できること。
未来について考えてみよう!

暮らしの中でできる「持続可能な未来社会」に向けたアクションについてのコラムやイベントを展開。
名古屋大学の先生がわかりやすくお話しします。

地元産フルーツのジャムを食べてみよう

EVENT

イベントレポート

2024.02.06

先生 
名古屋大学大学院 生命農学研究科 教授 徳田 博美さん
株式会社ブルーテック 代表取締役 青山 明裕さん

会場 松坂屋名古屋店 KiKiYOCOCHOイベントスペース

日時 2024年1月6日(土)

こちらからイベントの様子をご覧ください。

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CROSS
TALK

みかんの活用に見るフードロス対策とこれからの農業
〜SDGs 12 つくる責任 つかう責任・SDGs 2 飢餓をゼロに〜

2024.03.27

先生 名古屋大学 大学院生命農学研究科 
教授 徳田 博美さん

株式会社ブルーテック 代表取締役 
青山 明裕さん

丸茂農園 代表 
冨谷(ふかや) 茂寿さん

私たちの生活に欠かせない「食」を支えている「農業」。
今回は、名古屋大学の先生が、株式会社ブルーテック、丸茂農園のお二人と「食と農業」をテーマに座談会を行いました。

写真:左から 冨谷さん 徳田先生 青山さん

農家とIT企業が連携して作るジャム

丸茂農園 冨谷さん 丸茂農園ではビニールハウスで栽培するハウスみかんと屋外の畑で栽培する露地(ろじ)みかんを作っていて、ハウスみかんは私と妻が、露地みかんは私の父と母が担当しています。濃いオレンジ色で、糖度が高く甘いことが特徴の「みはまっこ」と、オレンジから緑のグラデーションが目印の、甘みと酸味のバランスが整った「さわみっこ」の、2ブランドを出荷しています。栽培のポイントとなるのは、栽培の中間時期に行う「水切り」です。水やりをやめることを指すのですが、糖度の高いみかんにすることができるだけではなく、薄皮がオブラートのように薄く仕上がるので、そのままでも食べやすいみかんになります。

ブルーテック 青山さん ブルーテックはIT会社なのですが、私が柑橘(かんきつ)好きで、オリジナルの柑橘ジャムをお歳暮で配ったところ好評だったことから、テスト販売を経てジャム製造販売を事業化しました。日本のおいしい果物を一年中味わえるように、生の果実を食べているような感覚のジャムを作っていて、さまざまな農家さんから仕入れをする中で丸茂農園さんと出会いました。今は、数多くの品種の味の違いも再現できるように、果物や品種に合うそれぞれの加工の仕方を研究しています。

丸茂農園 冨谷さん ブルーテックさんのジャムに使っていただいているのは、露地みかんと摘果(てきか)みかんです。摘果とは、なりすぎている果実を小さいうちに摘み取ることをいいます。果実をすべて木に残したままにしておくと、養分を奪い合って果実が大きくならなかったり、おいしくならなかったりするのです。収穫までに摘果を行うのは3回ほど。出荷できるのは最初についた実の10分の1くらいの量です。通常、摘果みかんはすべて土の上に落とします。そうすることで、次の年の肥料になるのです。剪定したときの枝や葉も細かくして肥料として活用しています。自然なSDGsと言えるかもしれませんね。それまでは摘果みかんを肥料以外には活用していなかったのですが、三重の農園では摘果みかんを絞ってポン酢などに加工されていると聞いたことがあり、ブルーテックさんからのお声がけを機会にジャムをやってみることにしました。

ブルーテック 青山さん 摘果みかんは商品として出荷するみかんに比べて酸味があるのが特徴で、普通のジャムよりも酸味が効いた香りのいいおいしいジャムにすることができました。販売してみると非常に好評で嬉しかったですね。

丸茂農園 冨谷さん 酸味が強く、果皮に苦みが残っていることがある摘果みかんを使ったジャムはなかなかありません。オリジナリティを感じる味に仕上がり、ブルーテックさんの挑戦の姿勢は本当にすごいなと思いました。

生育途中の温室みかん

気候に左右される露地みかんの活用

丸茂農園 冨谷さん 丸茂農園の経営の要となっているのはハウスみかんです。露地みかんはハウスみかんと比べて価格が安く、また、収穫量も少ないため、露地みかんで生計を立てるのは難しいというのが現実なのです。露地みかんの収穫量が少なくなってしまう大きな理由のひとつが、気候。ハウス栽培では環境をコントロールできるためみかんの能力を100%発揮できるのですが、露地だとそうはいきません。病気の原因となる菌を媒介する雨が降りますし、気温や天気にも左右されます。途中まで綺麗な状態だったとしても、例えば暖冬でたくさん雨が降れば表面がボコボコとしたみかんになってしまうということがよくあるのです。これまでやってきたことが実にならないのは非常に辛いことです。以前、冬に雹(ひょう)が降って露地みかんが傷だらけになったとき、訳ありりんごのように販売できないかと考えましたが、割ってみると中が傷んでいたため処分しました。ただ、傷んでいない部分もあったのでもったいないなと思いました。

丸茂農園 冨谷さん

ブルーテック 青山さん みかんが傷ついてしまったタイミングですぐに加工処理できれば有効活用できるかもしれませんね。時間が経つとさらに傷んでしまいますが、使える部分をすぐに抜き出すことができれば活用できそうです。また、傷ついたみかんを買って活用してくれる加工業者などがあれば安心して生産・販売できますね。

丸茂農園 冨谷さん 生産から販売までの仕組みづくりは本当に大事ですよね。例えばマグロだと、丸ごとだけではなく、赤身、中トロ、大トロなどさまざまな売り方があります。色んな部位を流通させられるのは、生産者にとってはありがたいことですよね。それと似ていて、みかんもいろんな売り方をしてそれを理解したうえで買ってもらって有効活用していただけると無駄にならないので嬉しいですね。スーパーに売っているような綺麗な商品が一番いいという考えではなく、みかん全部を余すことなく活用できたらいいなと思っています。

今のライフスタイルに合う果物とは?

徳田先生 今の日本は「果物離れ」が進んでいると言われています。近年の物価高騰も要因の一つですが、意外に果物の大きさも影響していると言われています。日本で家族で食べる果物といえば、典型的なものがりんご。皮をむいて、種を取って、くし形切りにしてみんなで分けて食べるのがスタンダードな日本では、りんごは大きめに作られているのです。ところが、近年の日本では一生独身で過ごす「生涯未婚率」が年々増加していて、りんごは一人で食べるには大きいので買わないという人が増えています。アメリカやヨーロッパでは軽食としてりんごを丸かじりする文化があり、丸かじりを前提にした小さめサイズのりんごが生産されています。小さめのりんごは摘果も少なくて済み、手間やコストもあまりかけずに作ることができるのですが、日本のりんごは厳しく摘果し、大きなサイズに仕上げることが一般的。さまざまな手間をかけて育てているため、価格も上がっていて、今の日本社会全体の動きとのギャップが出ていることがわかるかと思います。世の中の流れや、食べる人たちのライフスタイルを気にかけて生産・販売していくことが今後大事になっていくでしょう

徳田先生

ブルーテック 青山さん 消費者の需要が変わってきているのを感じますね。価格という意味でいえば、ブルーテックで作っているジャムは100gで1,000円です。今の時代だと高価に感じられると思うのですが、イベントでジャムを販売したときに、想像以上に好評でした。販売の際に、丸茂農園さんの紹介や、丁寧に作っていることなどをお伝えして生産者の顔が見えるようにしているのですが、それによってリピーターも増えたと感じています。「本当においしいもの」を探している人は多いのだなと感じました。いろんな需要に合わせて販売先を広げるのも大事かもしれませんね。

「食」の意識を高めることで、いろんな方法が思いつく

丸茂農園 冨谷さん 農業をやっていると、露地みかんのような問題もありますし、今話題に上がった果物離れの問題もあります。そんな中、みなさんに伝えたいのは、食の大切さです。例えば、牛肉だと見た目がほぼ同じでも、味がぜんぜん違うものがありますよね。それは、牛の食べているものが違うから。えさにこだわって育てられた牛の肉はクオリティーが高いんです。人間もそれと同じで、何を食べるかで健康のクオリティーが変わってきます。毎日の食事が私たちの体を作っているので、まずは食に対する意識を高めてほしいです。私たち生産者は、そこに向かってご期待に添えるようなものを作ることが使命だと考えています。

徳田先生 それと、食べ物が自分の手に届くまでのことを知ってほしいなと思います。農業の現場では、農業をやる人の高齢化や、耕作されずに放置されている荒廃農地の問題があり、ほかにも物流・運送業界の2024年問題(ドライバーの長時間労働を防ぐルールができる)や、食品加工、販売、利用の部分にもさまざまな問題を抱えています。その実態をいろんな形で知る、気にかけることが大事です。ニュースで見かけたときには関心を向けてみましょう。また、摘果みかんを使ったジャムのように、食品ロス対策にはいろんなやり方があります。買いすぎない、消費期限の短いものから消費する、などもあるのですが、まずは食品についてもっと知ってもらうことが一番大事だと思います。食品はそれぞれに保存の仕方や特性が異なりますので、それに合わせて消費するというのがコツです。理解が深まるといろんなやり方が思いつきますよ。食品に関するさまざまなことについて興味をもって生活してみてほしいです。

ブルーテック 青山さん 先日行った「摘果みかんなど果物ジャムの食べ比べ」イベントでは、子どもたちは大人よりも食品ロスを身近に自分ごととして捉えているように感じました、まずは自発的に、自分のやりたいように行動してみてほしいです。食品ロスについていろんな可能性を見出すことができるのではないかと思います。

「食」からはじまる農業とのさまざまな関わり方

丸茂農園 冨谷さん 今、美浜町の行政と連携して、小学生を対象とした職場見学や中学生を対象とした選果場での職場体験などを行っています。農業に興味を持ってくれる子どもが一人でも増えたら嬉しいですね。

ブルーテック 青山さん ジャムを食べて「こんなにおいしいんだ!」と思うのも、その果物に興味を持つきっかけになりますよね。そこから、農業やりたいな、食品に関することをやりたいなという気持ちにつながったらいいなと思います。単純に果物を好きになってくれるというのも嬉しいです。

丸茂農園 冨谷さん 丸茂農園のみかんを地元の小学校に提供しているのですが、そういった機会以外にも、今回のジャムのイベントのように、子どもたちに対して食について伝えられる場があるのはありがたいです。私は、食育は本当に大事だと思っています。子どもの頃に食べたものは記憶に残りますし、子どもの頃の味覚は大人になってからの味覚にもつながっているからです。農業の大切さはもちろん、食べ物のおいしさを伝えていくと、将来は明るいのではないかと思います。また、子どもの興味の原点は「楽しさ」なのでそういう場作りができればいいなと思います。

ブルーテック 青山さん 私がジャム作りに至ったのは、小さな頃から柑橘が好きだったというところが始まりです。社会人になってIT業界に入ったのですが、柑橘に関することがやりたいなと思っていたらジャム作りに関わることができました。こんなふうに好きだったものを伸ばす機会が作れるといいなと思います。

ブルーテック 青山さん

徳田先生 私は大学の「現代社会の食と農」という授業で、社会全体の動きや問題を農学部の学生に教えていて、食と農を考えるときには3つの視点が大事だということを伝えています。1つ目は栄養・健康。世界で見れば飢餓問題も深刻ですのでこれが第1の視点として大事です。2つ目は経済。農業は経済活動として行うものなので経済の視点は不可欠です。3つ目は文化・環境。食と農は地域や国ごとにそれぞれ違っていて、ここが他の工業との大きな違いです。国ごとに大きな文化の違いがあり、食には単に栄養をとるという目的だけでなく、楽しさや文化があるのです。食と農は食べるということ以外にもたくさんの関わり方があります。自分が農家をやるというのもありますし、それ以外にもさまざま。自分のできること、やりたいことをやるのがいいと思います。
青森県では、農業のベンチャー企業が新しい技術を使ったりんごの栽培を始めています。収穫期には多くの人手が必要になるのですが、この企業は地域の大学の学生に声をかけて募集しているそう。青森にいるなら一度はりんごの収穫に携わりたい!と思う人は結構いて、たくさんの人が集まるのだそうです。なるほど、そういう農業との関わり方もあるのだなと思いました。難しく考えなくても、いろんな形で農業に関わることができます。「食」という身近なものから、ぜひ、いろんなことへの興味を広げてみてくださいね。

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海洋プラスチックで万華鏡づくり

EVENT

イベントレポート

2023.10.24

先生 
サイエンスワールド(岐阜県先端科学技術体験センター)

会場 松坂屋名古屋店 キッズルーム

日時 2023年9月30日(土)

こちらからイベントの様子をご覧ください。

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COLUMN

海の生き物の生態系と海洋プラスチックの関係とは?
〜SDGs 14 海の豊かさを守ろう〜

2023.12.05

先生 名古屋大学 大学院理学研究科 附属臨海実験所 講師  
自見 直人 先生

海を汚し、海の生き物にもさまざまな影響を与えている海洋プラスチック。
今回は名古屋大学の先生から、海の生き物についての解説と海を守るためのメッセージをいただきました。

海の生き物の新種を見つけ出し、研究する

私は海洋生物の多様性を研究しています。釣り餌などにも使われる「ゴカイ」の新種を探したり、種と種の関係を調べたりしています。海の生き物が研究のメインですが、海に潜ったり山に登ったりしながらいろんな生き物を見つけています。今度は南極へ行きます。

たとえば名古屋大学の臨海実験所がある三重県鳥羽市沖の菅島で発見したゴカイは、青紫色に発光するんです。生き物の新種を探しながら、不思議な現象も探すというのがメインの研究内容です。これまでに新種は60種類くらい見つけました。

ペットボトルのキャップにできたゴカイの巣

海洋プラスチックによるさまざまな問題

私は普段、船に乗って生き物をサンプリングしているのですが、その過程でプラスチックが採れることがあります。歯ブラシやペットボトルのキャップなどに生き物が巣を作っていて、巣を作ることによってさらに生き物が集まってくるので、巣の中にはさまざまな種類の生き物がいます。海岸でも、生き物が生息している発泡スチロールを見つけることがあります。このように、生き物が自分たちの生活にプラスチックを利用してしまうことがあるのです。

歯ブラシに付着している生き物

海洋生物には子どもの頃に海中を漂う浮遊幼生というステージがあるものがいます。フジツボをイメージするとわかりやすいかもしれませんが、一部の海洋生物は浮遊幼生期を終えさまざまな場所にくっついて定着します。浮遊幼生が嫌がる物質を塗っておけばくっつかなくなるので、船には海洋生物が付着しないような塗料がつけられています。(これはずいぶん前からされている対策のひとつなのですが、船が動くことで塗料が剥がれてきてしまったり、バイオフィルムに覆われて塗料の成分が溶けだしにくくなったりして、どうしてもくっついてしまうものもあります。)船だとこういった対策ができるのですが、海洋プラスチックだとそういった対策が難しくなります。

海洋プラスチックが削れたりして直径5ミリメートル以下になった「マイクロプラスチック」を生物が体内に取り込んでしまうことが環境問題としてよく取り上げられていますが、海洋プラスチックは生物個体への影響だけでなく生物多様性にも影響を与えます。東日本大震災が起きたとき、津波によってアメリカの西海岸に流れ着いたプラスチックに、日本の生物が付着して生きていた例があります。私が日本の沖合で採取したペットボトルのキャップをよく見たところ、外国で作られたものであることがわかりました。キャップにはゴカイの仲間が付着していましたが、おそらく、遠く離れた外国から生きた状態でぷかぷかと流されて日本周辺に来たのだと思われます。海洋プラスチックが生物の方舟のようになっているわけですね。これまでに私が確認した海洋プラスチックに付いていた生き物は繁殖できるような状態のものもあり、通常では起こり得なかった場所で生物が増えてしまう可能性もあります。

自然の現象として、流木や海底火山の噴火により浮いてきた軽石にも生き物が付いていてそれが分散しているという事例があります。それらとプラスチックの違いについては現時点でははっきりわかっていませんが、材質が異なるので、海の底に沈んでしまうまでの時間も異なる可能性があります。つまり、プラスチックと自然現象では、生き物の分散に関わる時間が異なるかもしれないということです。外来種が入ってくる経路はもともといくつかあるのですが、その一つとして、海洋プラスチックが新しく出てきているという状況なのです。

外来種の問題を防ぐための取り組み

外来種問題を防ぐには、海洋中にあるプラスチックをなくすことが大事です。船を使って網で取るという方法もありますが、広大な海のほんの一部分しか除去できないため現実的ではなく、もっと根本的な解決が必要になってきます。私の研究の範囲ではないのですが、微生物の働きによって最終的には二酸化炭素と水にまで分解される生分解性プラスチックというものも開発されています。生分解性のプラスチックを使うことによって、それが海に沈んだり浮いたりしても分解されて、生き物の分散への影響が小さくなるのです。ただし、普及にはもう少し時間がかかるかもしれません。
また、プラスチックは他にもいろんな形で生物に影響を与えます。たとえば魚を捕るためのプラスチックの罠が海底に沈んでしまうと、そこに生き物が入って出られなくなって死んでしまいます。そして、その死骸を餌に別の生き物が入ってきて死ぬというのを繰り返す「ゴーストフィッシング」も起きています。そういったことを防ぐ仕組みづくりや、国としての対策も必要かもしれません。

先生が採取した海洋プラスチック

「ヒトが海の生態系を変えない」ことが大切

では、私たちにできることは何でしょうか。まずは、ゴミを捨てないことが第一です。発泡スチロール等の大きくて浮力の高いものは沈まずに浮き続けるため特に生き物がくっつきやすく、こういったものを捨てないというのを徹底することが大切です。海は広いから大丈夫だろう、ちょっとしたゴミだからいいだろう、と捨てたものが膨大な量になります。個人の「捨てない」意識が大事です。捨てたものが生き物の住処になってしまうということもあまり知られていないので、そういった知識を広めて捨てないようにしようと思う人を増やしていきたいですね。
最後に伝えたい大事なことは、海の生き物は皆さんが想像している以上に多様で、それぞれの生活があるということです。どの海もすべてつながっているのですが、それぞれ固有の生き物の生態系があってそれが回っています。ヒトが海の生態系を崩さないように、変えないように意識して過ごすこと。それを一人ひとりに大事にしてほしいです。

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「アニマルカリモク」

家具の端材で動物をつくろう

EVENT

イベントレポート

2023.07.07

先生 
カリモク家具株式会社/カリモク皆栄株式会社

会場 松坂屋名古屋店 キッズルーム

日時 2023年6月3日(土)

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CROSS
TALK

「木」からはじまる環境保護
〜SDGs 12 つくる責任 つかう責任・SDGs 15 陸の豊かさも守ろう〜

2023.08.18

先生 名古屋大学大学院生命農学研究科 教授 
山崎 真理子 先生

先生 名古屋大学大学院環境学研究科 助教 
山出 美弥 先生

カリモク家具株式会社/カリモク皆栄株式会社/知多カリモク株式会社

写真:前列左から 小林さん 平野さん 山崎先生 山出先生 中嶋さん
後列左から 安井さん 木村さん

環境保護について考えるとき、“木”は大きなポイントとなります。
今回は、カリモク家具株式会社、カリモク皆栄株式会社、知多カリモク株式会社の皆様と名古屋大学の先生たちが、木材の活用と環境保護について座談会を行いました。

知多カリモク工場見学レポート

今回は座談会の前に、資材の入荷と板材の仕分け、乾燥から家具の部品作りを行っている知多カリモクの工場を見学させていただきました。

知多カリモクはカリモクグループ内の製造工場で使用する木材を海外や国内から調達する資材工場です。カリモク資材の入荷から仕分け、乾燥、切断、椅子の脚などに使われる木管を作る工程、椅子の背などに使われる曲木を作る工程など、さまざまな作業が行われています。

カリモクではSDGsの取り組みのひとつとして、日本の森林保全を考え積極的に国産材の活用を進めています。工場では、木取り技術や、木の塊から削り出さずに薄い板を貼り合わせて曲木をする技術を活用し、木を無駄なく使用。小さな木材も接着工程でつなげて活用しているほか、端材の一部は、ワークショップ「アニマルカリモク」で使用して、木と触れ合い、木を好きになってもらう活動をしています。また、工場内で出る木くずなどは燃焼し、板材の乾燥や工場内の空調に利用しているそう。今回の工場見学でカリモクが木を大事にしていることが大変よくわかりました。

「木とつくる幸せな暮らし」を提案するカリモクの取り組み

カリモク カリモクグループは「自然と共生し、人生100年時代を意識した循環型社会」の実現を目指しています。カリモクが、そういった社会をつくるけん引役となるためには、経済的にも環境・社会的にも価値を創出し続けることが必要です。そのために、新しい事業領域・ビジネスモデルにも取り組んでいます。ひとつ例を挙げると、資生堂とコラボして「BAUM」のパッケージの木製部分の製造を担っています。

カリモクグループのミッションは「木とつくる幸せな暮らし」で、実は家具という言葉が入っていないんです。木を使って人を幸せにしたい、木による幸せな体験をしていただきたいという思いが中心にあります。

カリモク 使用している木材は、北海道や東北の国産材、マレーシアのラバートリー材(ゴムの木)、北米材などさまざまです。調達の際は、必ず現地を訪問しパートナーとして信頼できるかどうかを確認してお付き合いをしています。資材工場には現在約90種類もの木材の在庫があり、そのうち約70種類が国産材です。また、多樹種少量の広葉樹や針葉樹の調達も進めています。針葉樹は建材によく使われるのですが、輸入材との競合や住環境の変化などにより十分に活用されていない現状があります。それを暮らしの中で必ず手で触れる家具に使うことで、お客様が木に思いを馳せる機会が増えればいいなと思っています。

カリモク 木材という素材は、使いやすいものもあれば、節や割れ、長いもの、短いもの、反っているもの、色の濃いもの薄いものと本当にさまざまです。カリモクでは、この素材がもっているばらつきを上手に使い切る工夫を行っています。例をあげると、家具の部品としては使えない短い材料、節がある材料などを小さく切って接着剤で貼り合わせた「集成材」にして、その周囲に、節などの欠点が少ない3mm程度の薄い板を貼ることにより、ひとかたまりの無垢の材料に見せる製造方法があります。手間暇がかかりますが材料を大切に使うことができます。

木をもっと身近に感じてもらうには?

山崎先生 皆さんはテクスチャーとしての木のイメージは持たれていると思うのですが、そのイメージがどこまで繋がっているのだろうということをよく考えます。木材の色が変化するということも、意外と知られていないようです。

カリモク 木のアイテムを見たときに「癒やされるな」「きれいな色だな」とは思っても、もともとどんな木だったのかというところまで興味を持つ人は少ないかもしれませんね。

山崎先生 これは、生産者と消費者がすごくかけ離れているために、原材料がどんな過程を経て自分たちの手元に届いているのかを知らないからだと思うんです。なので、木材のトレーサビリティがポイントになってきます。トレーサビリティとは、その製品がつくられた経緯をわかるようにするために、材料の調達、生産、消費、廃棄までを追跡できるようにすること。つまり「見える化」です。これを実現しようとするとコストがかかるんですが、現時点ではこのトレーサビリティのコストが削られているんです。“丁寧にものを作る”こともSDGsの取り組みの一つですが、この中に、コストをかけた見える化も入れることが大切です。それに対して、消費者は責任をもって買う・使うという世の中になるとSDGsとしてもよりよい方に変わっていくのではないかと思います。

山出先生 お客様がものを買われるときにそのものの後ろにあるストーリーをどれだけ説明できるかというのは大切だと思います。木がどこで育ってここまできたのかというのを知ることで、木への愛着が増すと思うんです。そういったことも含めてブランディングにもなり、家具自体の価値が高まると思います。

山崎先生 木は人間と同じように“育つ”ものなので、手元に来るまでのストーリーにも共感が生まれやすいですよね。親近感もあるので、ほかの材料・素材との差別化にもなります。

木を使えば、二酸化炭素を減らすことができる

カリモク カリモクには「100歳の木を使うなら、その年輪にふさわしい家具を作りたい」という言葉があります。木を伐採したら、次の木が大きくなるまでにまた50年、100年かかります。私たちが木で家具を作り続けるためには、それまでの間使い続けられる家具でないといけません。木には、地球温暖化に影響を及ぼす「二酸化炭素」を吸収して炭素固定する機能があるなど、私たちは森林から多くの恩恵を受けていますが、長い時間をかけて育ち恩恵を与えてくれた木を短いスパンで廃棄してしまえば、その恩恵を無駄にしてしまいます。育った年月分長持ちする家具を作ることが使命の一つととらえ、グループ内に資材部門を持ち、資材―製造―販売が連携して品質至上に取り組んできました。

山崎先生 たとえば木製の家具を50年使って、メンテナンスしてさらに50年使ったとしたら、100年もの間炭素を貯蔵できたことになりますね。つまり、木でできたものを大事に使うことで大気中の二酸化炭素を減らすことができているんです。これは木造の建物でも同じことが言えます。

カリモク 家具の買い替えを検討する人は多いのですが、家具自体に愛着があり、リペアを選ぶという人もいます。家具を長く使うことで環境にもやさしくできるということをみなさんにもっと知ってもらえれば、リペアを選ぶ人も増えるのではないでしょうか。木は、生えていた年数と同じくらいの年数を十分に耐えられると言われています。たとえば神社などに使われるヒノキだと1000年以上使えるとも言われているんです。蝶番などの接合部が傷んできたときに適切なメンテナンスをすれば、さらに長く使い続けられます。

山崎先生 生物劣化さえしなければ木は金属などと比べてもはるかに耐久性が高い素材なので、家具自体の耐久性は半永久的だと思います。おっしゃたように、接合部のメンテナンスがポイントですね。

カリモク 私たちメーカーとしてはメンテナンスにコストがかからないように、メンテナンスしやすい設計・構造にするというのが課題です。家具をメンテナンスすることがあたりまえになれば、木を大切に長く使う社会になってくると思います。

山崎先生 昔は家具も家も長く使えるということ自体に価値があったように思いますが、今は賃貸で暮らす方も多く、家具はその空間に合うように引っ越すたびに買い替えるという方もいるそう。今の時代のキーワードは「空間」だと思います。どんな空間が好きなのか、どんな空間で過ごしたいのか、といった自分のイメージに合った家具と出会えば、自然と長く使いますよね。「長く使える」という機能面とのマッチというよりは、家具と空間のマッチ。その家具がある空間を好きになるというのがポイントだと思います。

将来的にメンテナンスがしやすいダイニングチェア。シート部のパーツ交換が可能。

山出先生 たとえばソファのリペアで張り替えを行って自分好みにしたとしても、これまでに使ってきた愛着や思い出は残るので、空間にマッチする。自分が落ち着く空間になる。空間を好きになるというのはそういうことなのかなと思いましたね。

カリモク 日常生活の中で、木で幸せを感じる瞬間を意識していただきたいと思っています。それは、公園を散歩したとき、職場の休憩室、家事をしているとき、リビングでくつろいでいるときなど、心地よいなと感じた時、その空間に木や木の家具、木の道具があることが多いのではないでしょうか?木で幸せを感じる瞬間を意識することができれば、自然と身の周りに木が増えると思います。その積み重ねが森林資源の持続的な有効活用につながると思っています。わたしたちとしては「木っていいよね」といってもらえるような空間やものを提案していきたいですね。

木を大切にしながらたくさん使おう

カリモク アニマルカリモクのイベントをしていて感じるのは「みんな木が大好き」ということです。人は生まれた時から木と暮らし始めます。庭や公園の木、建物の床や柱、椅子やテーブルなどの家具、食器など形や用途を変えてさまざまな木に触れる機会がありますよね。日々ともに暮らしてきたので、木に安らぎや癒しを感じる方も多いのではないでしょうか。木は人を癒やし、暮らしにも役立ち、さらに再生可能な資源にもなります。これほど素晴らしい素材はありません。私たちは今後も木とともに暮らしていきます。大好きな木を大切にかつたくさん使い、そして育てることが「自然と共生した循環型社会」につながるんです。カリモクとしても、魅力的な製品づくりやワークショップなどのイベントを通して、木を使う人を増やしていけたらと考えています。

山崎先生 家や仕事場、学校など、自分がいる場所の素材や材料を感じてほしいですね。街の中でも、校庭でも、どこでもいいので、好きな木をひとつ見つけてみてください。好きになると木が気になって、生涯にわたって木に触れる機会が増えると思います。あとは、木製の学習机もぜひ使ってほしいです。大学生や大人になってからも使えますし、木との付き合い方もわかります。大切に使ってほしいのはもちろんなんですが、木という素材はきれいなままの状態を保つことが正解ではないと思うので、ときには傷をつけてしまってもそれ自体が思い出になりますよ。木の家具と友達のように付き合っていけたらいいんじゃないかと思います。

カリモク そうですね。まずは木を好きになってもらうこと。好きになったら大切にしようと思いますからね。

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南海トラフ地震から身を守る

もしもに備えて今できること

EVENT

イベントレポート

2023.06.23

先生 
名古屋大学 減災連携研究センター 特任准教授 小沢 裕治さん|特任助教 幸山 寛和さん

会場 名古屋大学 減災館

日時 2023年 5月20日(土)

こちらからイベントの様子をご覧ください。

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COLUMN

“自分ごと”で考える災害対策
〜SDGs 11 住み続けられるまちづくりを〜

2023.07.14

先生 特任准教授 
小沢 裕治 先生

先生 特任助教 
幸山 寛和 先生

全国の広い地域で被害が予測されている南海トラフ地震。
今回は名古屋大学の先生から、地震への備えについて、メッセージをいただきました。

2つのプレートの動きによって地震が起こる

日本ではよく地震が起きますが、これはプレートが動くことが原因です。地球には軽石でできている、軽い「大陸プレート」と、溶岩が冷えて固まってできた、重い「海洋プレート」の2種類があり、どちらのプレートも地球の表面にある薄い層「地殻」と地殻の下にある岩石の層「マントル」の2層構造になっています。マントルの先には地球の中心部である「核」があり、そこにはマントルが溶けてできた高熱の「マグマ」があります。このマグマが噴き出すことでマントルが温められて伸び縮みし、それによって表面のプレートが動くのです。
日本で起きる地震の種類には2つあり、1つは大陸プレートが海洋プレートの動きの影響を受ける「境界地震」、もう1つは海岸から遠い、陸地の内部の地殻内で発生する「内陸地震」です。境界地震は2つのプレートの摩擦により発生し、内陸地震は地殻そのものに働く圧縮力により発生するところが2つの地震の大きな違いです。

最近では、ニュースでよく「南海トラフ地震」が取り上げられていますよね。プレート同士の海底の溝状の地形のことを「トラフ」といい、南海トラフとはフィリピン海を含む海洋プレートである「フィリピン海プレート」とユーラシア大陸を形成する大陸プレートである「ユーラシアプレート」のトラフのこと。宮崎県から静岡県までの大きなトラフから地震が起きると予測されているのです。南海トラフ地震は100~150年間隔で繰り返し起きていて、前回の地震(昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年))が発生してから70年以上が経過した現在では、次の地震の発生が迫っていると考えられています。発生した際には、愛知県では渥美半島などの地域に5m以上の津波が来る可能性が26%以上あると試算されています。

防災?減災?地震対策において大事なこと

南海トラフ地震が起きたときに命を守るためには備えが大切です。みなさんは「防災」という言葉を聞いたことがあるかと思います。災害そのものを防いだり、災害が起きたときに被害が出ないようにしたりすることです。では「減災」はどうでしょうか?これは、災害はいつかやってくるという前提で、被害を最小限に食い止める取り組みのこと。たとえば火災で考えてみると、燃えるものを周囲に置かず火災そのものを防ぐことが防災、火災が発生しそうな場所に消火器を置くことが減災です。防災・減災の考え方は災害によって異なり、例に出した火事の場合で考えると、防災は可能ですが、自然災害である地震においては防災でできることは限られています。減災が非常に大切になってくるのです。

私たちが今できることは?

私たち一人ひとりにも、今すぐにできる減災があります。まず、家での被害を小さくするためには、家具の固定をする、重いもの・大きいものを高い場所に置かないということが挙げられます。そして、実際に災害が起きたあとにも健康を守るためには、普段からしておくべきことがあります。1つ目は、家での準備です。水や食料、普段飲んでいる薬などの備蓄はもちろんのこと、常に最新の情報を仕入れることができるよう、乾電池式のラジオの用意やスマホのこまめな充電も大切です。ほかには、災害でカード決済やスマホ決済が使えなくなる可能性があるので現金の準備も。家から逃げるときに持ち出せる防災リュックもすぐに取り出せるところに置いておきましょう。2つ目は、避難についての確認です。家の近くの避難場所を確認し、実際に歩いて行ってみて、道を確認しておきましょう。被災想定区域や避難場所・避難経路、防災関係施設の位置などを示したハザードマップも普段から見るようにしておくことが大切です。

災害時に命を守るためのポイントは周りの人と連携すること。近隣に住む人などと普段からコミュニケーションを取り「顔の見える関係」をつくっておくことで、避難や避難生活がスムーズになるのです。自治体での防災訓練や地域の活動に参加するなどして、近所の方と面識をもつことから始めましょう。

“自分ごと”として知ること、備えることが大切

大学や研究機関などでの研究が進んだ結果、災害に関するさまざまな現象を詳しく調査・把握することができるようになりました。その一方で、自然現象を相手にしているので、予測することは未だ難しいのです。なので、まずは身近な場所にはどういった危険があるのか、災害が発生すると揺れはどのくらいか、津波や河川の氾濫による影響はどの程度あるのかを知ることが大切です。そういったことを知れば個人個人がすべき災害対策が具体的になります。
歴史や地震の発生の仕組みから見て、南海トラフ地震は必ず発生すると考えられます。個人で、家族で、学校や職場で、そして大学などの研究機関と民間企業が連携して備えるというのも大切です。“自分ごと”として考えること、そして、防災・減災など普段の地道な行動の積み重ねが災害時に大きな差を生みます。まずは関心を持つこと、できることから始めてください。

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包括連携 5周年記念企画

2021年11月〜2023年2月掲載

「未来の〇〇はどうなるの?」といった子どもたちからの
さまざまなギモンに名古屋大学の先生が答えます。

09

#_農業

食べると魔法が
使えるような野菜は作れる?

Q.食べると魔法が使えるような野菜は
作れる?

名古屋市 みいこさん(小学2年生 取材当時)からの質問

食べれば力が強くなる!飛べるようになる!といった、ゲームの世界のような食べ物があったら、嬉しいですよね。 今回は、農作物の品種改良によって、未来の食べ物はどうなるのかを学んでみましょう。

答えてくれる先生

白武 勝裕(しらたけ かつひろ)先生

名古屋大学 生命農学研究科

名古屋大学にある「生命農学研究科(せいめいのうがくけんきゅうか)」にて、遺伝子(いでんし)を調べて活用することで、人の生活を豊かにする農作物(のうさくもつ)を作る研究をしている農学博士。

栄養価の高い野菜で、体を強くできる

これはワクワクする質問ですね。答えとしては、食べてすぐにパワーが出るような野菜を作ることは難しいのですが、もっと健康になったり人間の能力が高まったりする栄養価の高い農作物を作る研究が進んでいます。
たとえば、ビタミンやタンパク質などがたっぷり入っていることで体を強くしたり、GABA(ギャバ)という成分が入っていることで精神を安定させたり。すでに「科学」という魔法(まほう)を使って、さまざまな農作物が作られています。そして、農作物をいっしょうけんめいに育てている農家のみなさんの力も「魔法」。いろんな人の努力で新しい食べ物が生まれているんですよ。

研究室でトマトの栽培をする白武先生

農作物をより食べやすくする研究も

ほかにも「種のない果物」や「皮のむきやすい果物」などの“食べやすい”農作物も研究されています。たとえば、バナナには種がないですよね。じつはバナナにも、もともと種はあったんです。ずっと昔に突然変異(とつぜんへんい)で偶然にできた種のないバナナを人間が見つけて栽培したことが始まりです。研究の結果、今はトマトやブドウなどで種がなくても実がなるような品種が出てきています。
天津甘栗のように渋皮がスルッとむける和栗(日本の栗)の品種が開発されたり、野菜や果物を長持ちさせたりする研究もされています。このように農作物を改良すると、味や香りなどが変わってしまうこともあります。トマトの種をなくして食べやすくすると、酸味が少なくなったりします。いろんな目的を同時にかなえるのはとても難しいことです。

食べ物の理想をかなえるゲノム編集技術

農作物が食べやすくなったり、長持ちするようになったのは、品種改良(ひんしゅかいりょう)によるもの。特に今「ゲノム編集」という技術による品種改良が注目されています。ゲノム編集とは、生き物の性質を決める設計図である遺伝子を書き換える技術のことで、遺伝子を狙ったとおりに編集できるのが特長です。この画期的なゲノム編集技術を使って身が肉厚になった魚や、GABAがたくさん含まれているトマトが、すでに実用化されています。「ゲノム編集」がどんなものなのかを知らなくて不安な人も多いようですが、農作物を改良するためのとても便利で役に立つ技術なので、消費者のみなさんにもその良さをしってもらい、もっと広まって欲しいと思います。

ゲノム編集技術で農作物が栽培しやすくなると、農家の方の負担を大幅に減らすことができるようになります。失敗しやすい家庭菜園(かていさいえん)も、簡単にできるようになるかもしれません。でも、今販売されているおいしい野菜や果物は、品種改良の力と農家の方の努力のおかげ。家庭菜園に挑戦して、その大変さを経験するのも良いことですよ。

さまざまな目的に合った食べ物が登場する時代に

未来では、今よりもっといろんな種類の農作物が求められるようになると考えています。自然の恵みで育った農作物と、世界中の人たちが飢えないようにするために新しいテクノロジーで作った農作物(ゲノム編集はこちらの考え方です)の2つの方向性が出てくると思います。ゲノム編集は効率がいいので、これからどんどん使われるようになると思いますが、すべての食べ物がそうなればいいとは思っていません。昔からそれぞれの地域で食べられてきたものや、文化・歴史の中で食べられてきたものなど、食は多様性が大切だと思うからです。

また、ゲノム編集の技術を使って、未来ではテーラーメイド(その人に合ったものをつくること)な農作物がでてくるかもしれません。たとえば、糖尿病(とうにょうびょう)の方が食べても血糖値(けっとうち)が上がらないお米や、腎臓病(じんぞうびょう)の方が避けなければいけないカリウムが少ないレタスなどです。これが実現したら、まさに魔法のようですよね。ゲノム編集の研究はどんどん進んでいますが、もっと研究を進めて農作物にいろんな魔法をかけることができるようにしたいです。「こんな食べ物があったらな」と困っている人がいたときに、ドラえもんのようにすぐに出せるように、日々準備をしているんです。持病やアレルギーのある方でも自分に合った食べ物を選べる時代が来ればいいなと思って研究をしています。

遺伝子で植物をデザインする

私は「遺伝子で農作物をデザインする研究」を行っています。これまでにお話ししてきたゲノム編集の技術は、人の暮らしを豊かにするもの。おいしい、健康に良い、食べやすい、見た目がきれい、育てやすいなど、植物の品種改良にはさまざまな目的があり、それをかなえるための遺伝子を見つけることも私たちの仕事です。

私の研究室では、ゲノム編集技術を使って「甘いトマト」を作り出すことに成功しました。ふつうトマトは甘くなると実が小さくなってしまうのですが、ゲノム編集で作ったこのトマトは、甘くなっても実が大きいまま。実用化が期待されています。このように、おいしいのはもちろん、健康に良い、いろいろな色や形など、さまざまな観点からデザインしていくのが目標です。そして、そのような農作物によって、みなさんの暮らしがより楽しく、豊かなものになればと願っています。

自分の好きなものを見つけよう

私は子どもの頃から自分でいろんなことを調べるのが好きで、園芸雑誌を読みながら植物を育てたり、考古学(こうこがく)やプログラミングにハマったりしていました。最終的には自然が好きだと思って農学の道に進みました。両親がやりたいようにさせてくれたおかげで、いろんなものに興味を持つことができたんだと思います。みなさんもたくさんのものに触れて、好きなことがあったらそれをどんどんやってみてほしいです。きっと未来につながるはずですから。

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08

#_運動

ヒトの能力は進化し続けて、未来では
もっと速く走れるようになる?

Q.ヒトの能力は進化し続けて、未来では
もっと速く走れるようになる?

名古屋市 けいたさん(小学4年生 取材当時)からの質問

大昔から進化を続けてきた私たち人間は、未来では足がもっと速くなるの?と考えたことはありませんか?今よりさらに運動能力が高くなったときの世界について、いろいろな視点から考えてみましょう。

答えてくれる先生

秋間 広(あきま ひろし)先生

名古屋大学 総合保健体育科学センター

名古屋大学にある「総合保健体育科学センター」にて、体の中を見る方法を研究し、筋肉の量や質を評価したり、皮下や筋肉内に霜降り状に分布する脂肪を評価するための研究に取り組む筋肉博士。

身体と技術の進化で、人間はもっと速くなる

これはおもしろい質問ですね。たしかに私たちの身体は長い時間をかけて進化を続けています。そして身体の進化以外にも、スポーツをするときの服や靴などの道具の進化も見逃せないポイントです。

一般人の足もアスリートの足も、少しずつ速くなっている

実際に「マラソンで足が地面を蹴(け)るバネを強くするために、プレートが入った靴を履いたら記録が伸びた!」という例もあります。すでにさまざまな技術の進化によって、活かしきれていなかった人間の運動能力が発揮できるようになっています。なので質問の答えとしては、今後も私たち人間の足が速くなる可能性は十分にあると言えます!
身体の進化についても、全国を対象にした体力テストの結果から、運動能力が年々向上していることがわかっています。身体能力と道具がさらにパワーアップした未来では、今では考えられないような世界記録の誕生を見ることができるかもしれません。

0歳の時点で得意なスポーツがわかる時代へ

スポーツに関係する遺伝子(いでんし)の研究では、遺伝子にも短距離走が得意なものと長距離走が得意なものがあることがわかっています。遺伝子は「生命の設計図」とも呼ばれ、調べていくと得意な運動分野以外にも、その人がかかりやすい病気など、さまざまなことがわかってきたんですよ。
そのため、未来では小さい頃から、自分に向いている職業やスポーツなどを知ることができるかもしれません。「中学校でどんな部活に入ろう?」「高校で文系・理系のどちらを選ぼう?」といった大切な選択をするときに、「遺伝子の情報を見て決める」なんてことが一般的になる日も来るかもしれないですね。

研究を進めて、スポーツをもっと安全に

現在私が取り組んでいる研究は、超音波断層装置(エコー)を使って体の中を見る方法を使い、筋肉のはたらきを調べるというものです。この研究が進むと、高いお金とたくさんの時間が必要な検査をするよりも簡単に筋肉を調べることができるようになります。そうすると、年齢を重ねていくことで生じる筋肉の衰えについての分析や、病気の早期発見や怪我(けが)をした時の回復がスムーズにできるようになるんですよ。
私がこの研究を始めたきっかけは、「宇宙に長くいると人間の身体はどうなるのか?」という疑問を調べる実験に参加したことでした。その実験は、参加者に20日間もベッドの上で過ごしてもらい、宇宙の無重力空間で人間の筋肉がどれくらい衰えるのかを地球で調べよう!というユニークなものでした。それまではどうすればいい筋肉がつくかを調べていたのに、その影響で「筋肉が衰えていくと、人間はどうなるのか?」ということに興味を持ったんですね。

今日から足が速くなる、筋肉の動かし方

いま私たちの身体能力は、新しい技術やトレーニングによって向上を続けています。しかし時代が進むにつれて、運動が好きで身体が健康な人と、運動をあまりしない生活習慣の影響で不健康な人の差が広がっている傾向があるんです。ある研究では、子どもの頃の生活習慣や体型は大人になっても続いていく可能性が高く、子どもの頃に作られた健康な身体の基礎は、生涯その人の健康を支えてくれるということがわかっています。そのため、みなさんにはぜひお家の外に出て、体を動かす楽しさを味わってほしいです!

では最後に「今、速く走れるようになりたい!」というみなさんに向けて、速く走る3つのコツをお伝えします。ポイント1は、走る時に前に体重をかけること。ポイント2は、地面を蹴ったあとに、かかととおしりがピタッとくっつくように、足をコンパクトに前に持ってくること。ポイント3は、ひじを90度にしてとにかく大きく振ってみること。速く走る研究は私の専門ではありませんが、研究をされている方からはこのようなアドバイスが出ています。この3つを意識すると、筋肉がより上手に使えて、足が速くなるかもしれません。運動会やスポーツテストで、ぜひ試してみてくださいね。

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07

#_技術

未来では、子どもでも簡単に
空を飛べるようになる?

Q.未来では、子どもでも簡単に
空を飛べるようになる?

名古屋市 たいせいさん(小学4年生 取材当時)からの質問

「ほうきやマントのような身近な道具を使って、空を自由に飛びまわる!」という夢のようなお話が、もし現実になったらどうなるだろう?と、みなさんも一度は想像したことがあるのではないでしょうか。今回は、私たち人間が気軽に空を飛べる世界について、いろいろな視点から考えてみましょう。

答えてくれる先生

砂田 茂(すなだ しげる)先生

名古屋大学 大学院工学研究科

名古屋大学にある「工学研究科」にて、人間が簡単に空を飛べる未来を目指して、昆虫の飛び方などを研究し、ドローンや空飛ぶクルマを安全に飛ばす方法を日々研究している飛行博士。

空を自由に飛べる世界を考える

これは夢のある質問ですね。答えとしては、実はただ飛ぶだけであれば、もうできるようになっています!38年前に開催されたロサンゼルスオリンピックでは、開会式に噴射装置(ふんしゃそうち)を背負って空を飛ぶ人が登場していました。現在では、着用型の「空飛ぶスーツ」や、ひとりで乗る飛行装置の開発も進んでいます。

しかし、みなさんが自転車に乗るくらい気軽に空を飛ぶには、たくさんの壁があります。その中でも最も高いのは「安全」の壁。もし飛行機が落ちてきたら、乗っている人はもちろん、地上にいる人も決して安全とは言えませんよね。それと同じように、私たちが気軽に空を飛ぶためには、地上に自動車が走り始めた時と同じくらい、安全に注意しなければならないんです。
そのため、いつ簡単に空を飛べるようになるか?ということはまだハッキリと分かりません。しかし大人たちは今も、空を自由に飛ぶために一生懸命(いっしょうけんめい)研究を続けているので、いつかはきっと実現すると思っています。

空飛ぶ移動が当たり前になると、どうなるの?

自由に空を飛べる世界では、横方向にも、上方向にも簡単に遠くへ行けるようになります。たとえば、体力のないおじいちゃん、おばあちゃんが足腰を傷(いた)めずに富士山の山頂からの景色を見られるかもしれません。また、空からの視点(してん)で街を見ることができるようになると、地上にいる人のプライバシーを守るために、庭やプールなどに屋根がつくかもしれませんね。ほかにも、地上から見られることを考えて作った建物が、空からも見られるようになることで、建物の美しさや形についての「常識(じょうしき)」が変わるかもしれません。こんな風に地上から見ていた世界が、人間が空を飛ぶことによってより立体的になると、それまで当たり前だったことが次々と変化し、それに影響(えいきょう)されて人間の考え方も変わってくるのではないかと考えています。

私たちの暮らしを変える、空飛ぶ物体を作りたい

私が取り組んでいる研究では、人々の暮らしを変えるような飛翔体(ひしょうたい)をつくることを目指しています。今もっとも力を入れて取り組んでいるのは、空飛ぶクルマの研究です。自転車に乗るように気軽に空を飛べる世界を実現するために、安全の次に重要な、騒音(そうおん)を減らす研究をしています。

私がこの研究を始めたきっかけは、大学4年生のときに、テレビで「トンボになりたかった少年」という、航空(こうくう)についての研究者のドキュメンタリーを見て、昆虫がどうやって飛んでいるのかが気になったことでした。今も研究を続けているのは、あのときの好奇心(こうきしん)を大切にできていたからだと思います。

翼の角度を変えることで飛行するドローン

日常にあふれる「なぜ?」を大切に

インターネットを使うと、簡単に答えにたどり着けるのでは?とつい思ってしまいますが、研究は正解のない世界。ベテランの研究者も、若い研究者も、自分のなかにある「なぜ?」を考え続けて、いろんな発明を生み出しています。みなさんも、飛行機や空飛ぶクルマのことが知りたい!と思ったら、まずは身近な昆虫の観察(かんさつ)から始めてみるのもいいかもしれません。

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06

#_食育

未来ではきらいなものを
食べなくていい?

Q.未来ではきらいなものを
食べなくていい?

みらいトーク特別企画からの質問

私たちが健康でいるために「食べること」はとっても大切なこと。でも誰にだって、きらいだったり苦手だったりして、食べたくない!と思うものは一つくらいありますよね。今回は、“科学の研究が進んだ未来では、苦手なものは食べなくてもいい?”という気になる疑問について学んでみましょう。

答えてくれる先生

伊藤パディジャ綾香(いとう ぱでぃじゃ あやか)先生

名古屋大学 環境医学研究所

名古屋大学にある「環境医学研究所」にて、私たちのからだの栄養代謝や免疫の仕組みを研究し、毎日を健康に暮らすための食べる工夫を生み出している医学博士。

いろんな食べ方が生まれる、未来のごはん

これはとても素直な質問ですね。質問の答えとしては、主食と言われ、エネルギーのもとになるごはんやパンなどの炭水化物を食べたくない!とか、野菜は全部食べません!となると難しいですが、ある野菜に限って食べられないものがある分には、他の食品からも同じ栄養素がとれるため、無理に食べなくてもよいでしょう。たとえば卵アレルギーを持っている人は、卵が食べられないから健康にはなれないかというと、そんなことはないですよね!

”きらいなものをたべたくない”という人の希望に応える目的や、他の目的で、未来では食生活への考え方が大きく変わっていくと考えられます。具体的には、栄養素はサプリメントでとって「食べたいものだけを食べる」という考え方と、栄養素を気にして食材にこだわり、添加物(てんかぶつ)が少ないものをおいしくいただく「食べることを大事にする」という2つの考え方に分かれていくのではないでしょうか。そのため、栄養素を簡単にとれるサプリメントは、これからもっと進化するでしょう。

一方で気をつけたいこともあります。サプリメントは栄養素を小さな形にするために添加物を入れているので、それらを消化するために、私たちの体がいつも以上に働きます。それがかえってストレスになったり、栄養素をとりすぎることによって体の調子が悪くなったりすることがあるんです。そのため、すべての栄養素をサプリメントでとれるようになるのは、もう少し先になりそうですね。

今ある食べ物をもっとおいしくする技術

今は、魚の鯛(たい)を肉厚にするための研究や、リラックス効果のあるGABAという成分をたくさん含むトマトを作るなど、いろんな食材をよりよくしようとするゲノム編集という技術があります。そうした技術を用いれば、今よりも食材をおいしくすることもできると考えられます。ゲノム編集技術が確立される前にも、科学の力によってすでに昔とは味が変わっているものもあるんです。たとえば私が子どもの頃に食べたニンジンは、今みたいに甘くなかったですが、日本人は野菜やくだものの甘い味を好むようで、時代とともに品種改良が進み、どんどん甘くなっています!私たちが健康に過ごすには体だけでなく、楽しいと思える心もとても大事。そのどちらをも満たすおいしい食材の登場が楽しみですね。

私たちが住む地球で「いのち」をいただくということ

私が子どもの頃のことでよく覚えているのは、人間が捨てた油のせいで汚れてしまった鳥の写真を見たことです。“私が大人になった未来では、この地球はすごく汚れてしまっているのかな?”と考えるようになり、なかなか眠れませんでした。私は自然がいっぱいの場所で育ったので、そこでは食べられなかったものを畑の肥料にしたり、家にいたニワトリにあげたりしていました。祖父母と一緒にサツマイモを収穫したり、かき餅を作ったりして、おやつを食べることも多かったのですが、自分で収穫したものを食べると“ここまで一生懸命育ってきた「いのち」をいただきます”という特別な気持ちになり、ごはんを残さないでおこう!という思いが自然に身についたように思います。

先生のお母様が開催するお料理サロンにて、お二人のツーショット

こころもからだも元気でいるために

私の母は管理栄養士であり、「料理研究家」という、世界各国の料理について研究しつつ、料理の仕方や体に必要な栄養素の役割を伝える仕事をしていました。それもあって毎日のごはんは全部母の手作りでした。そうでないものを食べたのは、私が中学生の時に冷凍のコロッケをお弁当に入れてほしいと母に頼んだ一度だけ。でも実際に食べてみると、冷凍のものと手作りのものはかなり味が違うのだと気づきました。そんな母がよく話しているのは、家で家族とおいしいごはんを食べて「しあわせ」を感じるのが大切だということ。私はきらいな食材がないですが、その理由には母が私にいろんな食材をいろんな調理法で出して「しあわせ」に食べさせてくれたことが関係しているのだと思います。

私が食を専門としたきっかけは、大学生の頃の研究で、病気になると、からだの中のある栄養素が減って、調子が悪くなると分かったこと。そのときに、病気で減ってしまう栄養素を食べて補っておけば、体の調子が悪くなるのを防げるのではないか?と考えました。これからも「食」によって病気を予防するような研究を通じて社会に貢献したいと考えています。私は両親や祖父母のおかげで、豊かな食の経験をすることができました。食べることは生きる基本です。みなさんも一度、料理を保護者の方と一緒に作ってみてはいかがでしょうか?自分が食べているものはどうやって作られているのかを知ると、きっと、食べることが今よりもっと楽しくなりますよ。

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特別編

#_イベントレポート

発酵や免疫のパワーを知って
食べる楽しさを体験しよう!

今回は、お子さんたちが毎日元気でいるためにとっても大切な「食べること」について詳しく学ぶため、5月29日(日)に名古屋大学NICにて開催された特別企画「食と健康の未来〜発酵食(はっこうしょく)や免疫力(めんえきりょく)を通して学ぶ子どもたちの成長〜」のレポートをお届けします。

お話いただいた先生

伊藤パディジャ綾香(いとう ぱでぃじゃ あやか)先生

名古屋大学 環境医学研究所

名古屋大学にある「環境医学研究所」にて、私たちのからだの栄養代謝(えいようたいしゃ)や免疫(めんえき)の仕組みを研究し、毎日を健康に暮らすための食べる工夫を生み出している医学博士。

食と健康の未来を学ぼう

大人も子どもも、先生のお話に真剣に耳を傾けました

東海地区に住む小学生とその保護者合わせて10人で、いろんな体験をしながら「食べること」について楽しく学んだ今回のイベント。「みなさんはこれから日本を引っ張っていく人たちなので、今日はどのようにごはんを食べて、生きていったらよいかを意識しながら聞いてみてください」という伊藤先生のメッセージからイベントがスタートしました。

食事バランスが元気をつくる

「日本人の平均寿命(へいきんじゅみょう)を60年前と今とで比べると、60歳から84歳へと20年以上も伸びています。その理由は、いろんな薬や医療が開発されてその治療を受けられたから。しかし、今後もそういった治療がずっと受けられるとは限りません。」

からだを作る食べ物の選び方についてお話する先生

「今のシステムのまま未来になると、お金がある人しか治療を受けられないかもしれないのです。そんな中でも健康でいるために必要なことは、食事をバランス良くとって、からだの基礎を強くすることだと思っています」と、健康な体をつくるために必要なバランスのよい食事のヒントとして、あか・きいろ・みどり・くろ・しろという5つの色の食材を取り入れると5大栄養素が自然とバランスよく食べられるという説明がありました。

どのチームも、おいしそうな献立を作ることができました

先ほどの学びをもとに、いろんな料理がプリントされたカードを使って献立(こんだて)を考えるグループワークを開始。参加してくれたみなさんは、とってもよいバランスで献立を立ててくれました。先生からは「1食の中でバランスを取るのが難しい時は、1日、1週間単位でバランスを取ればOK。毎日のことなので、無理をしないことが大切です!」とよい食事を続けていくためのアドバイスがありました。

からだを守る免疫と発酵食のパワー

その後、お話は先生が研究している免疫へと続きます。免疫とは、みなさんの体内に入ってくる悪いものから、からだを守るシステムのこと。「からだ守り隊の隊員がチームを結成して必要なときに必要なだけ働いてくれるのです」と説明がありました。そして話は、免疫を元気に動かすために効果のある食材、発酵食へと続きます。

どちらが発酵食なのか、じっくりと考え中

「日本の国鳥や、国花のように、日本の“国菌(こっきん)”というものも存在します。“こうじ菌”という菌です」
みそ・しょうゆなどは発酵(はっこう)によって、味がまろやかになってとても美味しいこと、なごやめしには発酵食がたくさん使われていることを学び、身近な発酵食について知ることができました。発酵食に少しくわしくなったところで、みりん・かつおだし・かつおぶしを使って、発酵したものと発酵していないものを見分けるクイズを実施。コップに入ったみりんをかいだり、かつおだしを少し飲んでみたりして、「難しい!」と真剣に答える姿が見られました。

いろんな香りをかいで、感想を話し合いました

世界の発酵食にふれてみよう

45分の講義を終えた後は、名古屋大学博物館※で開催されている特別展「世界の発酵食をフィールドワークする」をみんなで訪問。講義で学んだ日本の発酵食から発展し、“タイには発酵させて食べるお茶がある” “エチオピアでは子どもも主食としてお酒を飲んでいる”など様々な異文化を学び、世界の発酵食を見たり、かいだりして体験しました。
※通常日曜日はお休みですが、この時間だけ開館していただきました。

伊藤先生と参加してくれたみなさんで記念撮影

約1時間45分のイベントはこれで終了。このイベントを通じてお子さんもお母さんも 、食べ物への興味の「タネ」を見つけられたと思います。バランスのよい食事のコツや日本の料理には欠かせない発酵食を使用した食事など毎日のごはんにぜひ取り入れたくなるイベントとなりました。

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05

#_科学

コンピューター技術で、
世界はどこまで便利になるの?

Q.コンピューター技術で、
世界はどこまで便利になるの?

名古屋市 めぐみさん(小学1年生 取材当時)からの質問

たくさんの計算が一瞬で解ける未来のコンピューターとして注目される「量子コンピューター」。今回はコンピューターを動かすプログラミングの仕組みや、それを使って、これからのコンピューターが世の中をどんな風に便利にしていくのかを学んでみましょう。

答えてくれる先生

藤巻 朗(ふじまき あきら)先生
山下 太郎(やました たろう)先生
田中 雅光(たなか まさみつ)先生

名古屋大学 大学院工学研究科
※取材当時

名古屋大学にある「藤巻研究室」にて、量子(りょうし)という不思議なモノを利用して、世界一速いコンピューターを作ろうとしているコンピューター博士たち。
(左から、山下先生、藤巻先生、田中先生)

コンピューターがつくる、50年後の未来

実はこれは、まだはっきりとした答えが分からない質問なんです。しかし50年後くらいには、頭で「こうしたい!」と考えるだけで、特にスイッチなどを操作しなくても実行できるようになると予想しています。どう実現するかというと、ヘルメットみたいなものを頭に着けて、人間の脳をモニタリングするんです。例えば頭から出た「こうしたい!」という信号を、リモコンが受け取ってテレビのチャンネルを変えたり、検索やプログラミングを任せたりできます。残念ながら、これを使ってもみなさんの宿題を機械が全部やってくれる訳ではありませんが、答えに近いものは分かるので、50年後の小学生は夏休みの宿題なんかを一瞬で終わらせて、すぐ遊びに行けるのかもしれません!

しかし1つ問題があって、この方法では、コンピューターに頭の中を見せるので、誰かに秘密がバレてしまうかもしれないんです。なので実際に使うときには、使い方をよく考えなくてはいけません。また、このような便利なことは、機械が自動でやってくれていると思いがちですが、実は、そのやり方を機械に教えているのは人間。機械だけがわかる機械語を使って、「この順番で動かしてね」という手順表を作ります。そういったコンピューター技術のことを「プログラミング」と呼ぶのです。

名古屋大学 工学研究科 藤巻研究室にある量子コンピューター

不思議な存在の「量子」とは?

ここからは私たちの研究についてお話しします。私たちは、量子(りょうし)という不思議なモノの性質を利用して、それを使った世界一速いコンピューターを作ることを目標にしています。量子とは、すごくわかりやすく言うと、目には見えないほど小さな光や、音や、物質などのことです。そしてその小さい世界でしか起こらない不思議な現象があり、その面白さに世界中の研究者が夢中になっています。今お話しした不思議な現象を使って世の中を便利にすると言われているのが、「量子コンピューター」です。

現在研究などに使われている機械はスーパーコンピューターというのですが、これはいわゆるスマホや家のパソコンのすごいバージョンのこと。その機械が苦手な問題を「量子コンピューター」は全く違う方法で簡単に解いてしまうのです。そうすると、「スーパーコンピューターよりもすごい機械が量子コンピューターなのかな?」と思いますが、そうでもありません。それぞれに得意な問題と苦手な問題があるため、この2つは助け合いながら成長していくと言われています。

コンピューターの魔法で、暮らしを便利に

量子コンピューターは荷物を家まで運んでくれる「配達」をスムーズにすることや、車の渋滞(じゅうたい)をなくすこと、薬を効率よく作ることにも役立つと言われています。どれだけ方法の数が多くても、一番いい方法をすぐに見つけるという特技をもっているので、色んな条件を組み合わせて考える時間割決めや、当番表の作成にも向いています。また、量子コンピューターのもう一つの使い方として、食べ物が育つ仕組みを調べるという使い方もあります。その研究が進めば、地球上で暮らす全ての人々に食料がいきわたらないという食料問題を解決するヒントなども見つけられる可能性があります。

子どもの頃のお話で盛り上がる先生たち

私(藤巻先生)がこの研究の世界に入るきっかけになったのは、大学生当時に流行したスペースインベーダーゲームにハマったことでした。これをもし、もっと速いコンピューターでやったら、どうなるんだろう?と思ったんですね。そうして色んなことを試し続け、今では大学で研究をするようになりました。私たちに共通しているのは、みんな小さな頃からものづくりが好きだったことです。ミニ四駆やラジコンをカスタマイズして、おもちゃは自分で作るのが楽しい!というタイプ。「これを試すとどうなるだろう?」というワクワクが、大人になってからも研究を続けるパワーのもとになっています。

未来のコンピューターについて、少しイメージができましたか?ものづくりやプログラミングに取り組んでみると、みなさんのワクワクの扉が開くきっかけになるかもしれません。

量子コンピューターについて、もう少し知りたい方は是非ご覧ください。

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04

#_エネルギー

未来には、地球を救う
エコな発電方法があるの?

Q.未来には、地球を救う
エコな発電方法があるの?

名古屋市 かんたさん(小学5年生 取材当時)からの質問

これからの未来でとっても重要になるエネルギー問題。環境に負荷をかけない大規模な再生エネルギーを思い浮かべる人も多いと思いますが、コンセントも電池も使わずに小さな電気を生みだし、生活を便利にするテクノロジーについても考えてみましょう。

答えてくれる先生

大野 雄高(おおの ゆたか)先生

名古屋大学 未来材料・システム研究所 教授

名古屋大学にある「未来材料・システム研究所」にて、体温や摩擦(まさつ)などの小さなエネルギーを使って、人々の生活を便利にする方法を研究している電気博士。

未来の地球を救う、小さなエネルギーの使い方

小学校5年生でこういった問題を考えているとはすごいですね。これからの未来では、テクノロジーが進歩して必要な電気量が増えるにもかかわらず、その電気を作る材料が少なくなったり、石油などの化石エネルギーの使いすぎで地球温暖化が進んだりすることで、私たちの生活がピンチになる危険があります。ご質問いただいた「地球を救うエコな方法」が必要な理由はそこにあります。現在では色々な再生可能エネルギーの開発が行われており、そのメインとなっているのは太陽光発電です。いかにコストを抑え、効率よく発電できるかという研究が進められています。そのような大量の電気を生み出す研究に対して、私の研究では、身のまわりのエネルギーから小さな電気を生み出すことで化石エネルギーを節約し、ムダづかいを減らすことを目指しています。今回はそういった視点から、地球を救う方法を考えていきましょう。

人間の動きを電気にする技術

節約は我慢するものだと考えがちですが、私が研究している「エネルギーハーベスティング」という技術では、化石燃料を使わずに電気を生み出し、人々の暮らしを快適にすることができます。エネルギーハーベスティングとは、人間が歩くときの「ゆれ」や「体温」のような小さなエネルギーを電気に変える技術です。私たちの社会には、まだ使われていないエネルギーがあらゆるところに隠れているため、それを使って世の中を便利にしていこうと考えています。

では、小さなエネルギーが実際にどんなものなのか見てみましょう。これは、人が手を叩くとその摩擦(まさつ)で発電して、手袋についているライトが光る機械です。

手袋型発光デバイス

みなさんも一度はやったことがあると思いますが、下敷きを頭にこすりつけると髪の毛が逆立って、静電気が見えますよね。ここではその仕組みを使っています。手袋は静電気が起きやすい素材でできていて、パンッと両手を叩くと静電気がシートに流れ、その電気でライトが光るようになっています。これが「手を叩く」という小さなエネルギーを使った発電なのです。

そして、この仕組みを応用した分かりやすい例がスマートハウスです。部屋に入るとその振動でセンサーが反応して自動でライトが光るなど、家の中のものを自動化することで、電気と、人間がスイッチを押すエネルギーの両方を節約できます。また、電池やコードがいらなくなることで、電池交換や配線の手間を減らすことができるんですね。

患者さん自身のエネルギーで動くパッドのイメージ

この技術は、病院でも活躍します。心臓の鼓動をモニタリングする心電図のような、体にくっつけて使う機械を患者さん自身の体温や振動で動かすのです。いろんな理由で医療機器を24時間体につけている患者さんは、電池やコードがついている硬い機械に大きなストレスを感じます。そこで、患者さん自身を電源にできるパッドを作れば、モニター用の硬い機械を、柔らかくて体になじむシールのような素材に進化させることができるのです。このように、エネルギーハーべスティングは快適さと省エネをどちらも実現できて、アイデア次第で無限の可能性がある技術なんですよ。

名古屋大学 未来材料・システム研究所 大野研究室にて

私が電気に興味を持ったのは父がきっかけでした。小さい頃、父が壊れたおもちゃを分解し、そこからモーターを取り出して電池をつけて、こんなふうに動くんだよ、と見せてくれたんですね。それからは、家中のいろんなものを分解して遊ぶようになりました。分解することで、機械が動く仕組みを知ることがとっても面白かったんです。分解しすぎたことで両親に怒られたことはなく(もしかすると、私の見えない所では怒っていたのかもしれません…)、小さい頃の興味を応援してくれたことはとてもありがたかったですね。これからも当時の好奇心を忘れずに、研究を進めていきたいです。

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03

#_学校・教育

将来、学校の先生は
AIロボットになるの?

Q.将来、学校の先生は
AIロボットになるの?

名古屋市 ともひろさん(小学3年生 取材当時)からの質問

この先の未来では、ロボットの先生の授業を受けることになるかもしれません。現在、人間の先生はどんな仕事をしていて、それがロボットになったらどうなるのでしょうか?時にはやさしく、時にはこわ〜い先生のミライを見てみましょう。

答えてくれる先生

坂本 將暢(さかもと まさのぶ)先生

名古屋大学 大学院教育発達科学研究科 准教授

名古屋大学にある「教育発達科学研究科」にて、学校の授業を面白くて分かりやすくするために、どんな工夫をすればいいのかを研究している教育博士。

人間の先生がもつ大切な役目とは?

これはとっても近未来的な質問ですね。約40年前、私がともひろさんくらいの頃にも、そんな時代が来たら面白いなと思っていました。近い将来、AIの先生が登場するでしょう。でも、全ての先生がAIに変わるわけではありません。なぜなら、先生の役割は教科書の中身を教えるだけではなく、人生のセンパイとしてともひろさんのようなみなさんに生き方や考え方を教える役割もあると考えているからです。私たち人間が成長するタイミングは、頑張りたいと思うことが見つかって、どんどん努力をしていくとき。だから、学校の先生はみなさんに「自分はどんな人なのかな?」と考えてもらう、きっかけをつくるのも仕事の一つなんですね。

授業は先生と児童生徒が一緒に作り上げることが大事

先生という仕事に向いている人は、みなさんをよーく観察し、悲しいときは一緒に泣いて、うれしいときは一緒に喜ぶことができる人です。そして、ちょっぴり不安を感じてくれる人であることも大切です。「みんなに分かりやすく教えられているかな」と思いやる気持ちがあると、誰かの様子がいつもと違うときにすぐに見つけられるからです。でも、みなさんのことに気持ちが向きすぎて、教え間違いをすることもあります。これは人間の先生ならではのミスですね。先生がAIになったら間違いはなくなりますが、人間の先生のように生徒の顔を思い浮かべながら授業をするのはちょっと難しいかもしれません。人間とAIの先生がそれぞれの得意なところを補いながら勉強を教えるような仕組みになればいいなと思います。

好きな授業を選べる未来に

未来では、学校に通う人も通わない人も、今よりもっと自由に学校や学び方を選べて、勉強ができるようになるでしょう。病院で授業を受けられる院内学級(いんないがっきゅう)のように、インターネットを使って学校とつながることで、色々な理由で学校に通わない・通えない人でも豊かに学べるようになります。また、教科書を使う勉強とはちょっと違った学び方で、ひとつのことを考え抜く力をつける人も増えるでしょう。そうなると、リアルの学校でしかできないことは、薬品を使った実験など特別な用意が必要な授業や、遠足や運動会などのイベントになります。こういうときだけ、みんなが学校に集まるのもいいかもしれませんね。

先生の動きがもたらす授業の躍動感

ここからは、私の研究についてお話しします。私が調べたのは「授業中に先生がどんなふうに動いているのか」ということです。

画像①は、先生をめざす人が授業を練習する様子を録画したもの(左)と、そのときの左右の動きをグラフにしたもの(右)です。一番右のグラフだけギザギザがとても細かいですが、これは中学校で数学を教えている本物の先生の動きです。本物の先生は生徒が学んでいる様子をしっかり観察しているので、動きが多いんですね。グラフは左から右にかけて、練習回数が増えていきます。こうして見てみると、練習を重ねるごとに動けるようになっているのが分かりますね。
先生は、ただ左右に動いているのではなく、児童生徒の様子をいろいろな角度から見たり、ノートを確認したりして、さっき話したように授業を一緒に作っているのです。

ここで一つ豆知識をお伝えすると、黒板の書き方には実は、先生たちの工夫があります。それは「一つの授業では、黒板一枚だけを使う」ということです。そうすると、生徒が授業を少し聞きそびれても黒板に書いていることを追えば、クラスで何について話し合っているのか分かりますよね。この工夫だけでなく、先生たちは分かりやすい授業をするために、文字やグラフを黒板のどこに書くのか考えながら授業をしています。先生の黒板の使い方にも注目してみると、いつもより授業が面白くなるかもしれませんよ。

私が教育に興味を持ったのは、先生の話を聞いていないと思っていたクラスメイトが、突然手を挙げて、誰にも思いつかない面白いことを発表したことがきっかけでした。それまでは、「学校=勉強する場所」だったのですが、「学校=クラスメイトのアイデアを聞く場所」「学校=クラスメイトの考えを手がかりに、さらに考える場所」に変わったのです。そういうことも大事にしながらロボットやAIの力を借りることで、児童生徒がさらに豊かに考えて生き生きと学ぶことのできる場所になることを願っています。

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02

#_自然

地球温暖化のせいで
台風や豪雨が増えるってほんと?

Q.地球温暖化のせいで
台風や豪雨が増えるってほんと?

名古屋市 りくさん(小学3年生 取材当時)からの質問

様々な場所で耳にする地球温暖化。地球がこれから先もっと暖かくなると、私たちの暮らしは大変なことになるかもしれません。
未来の自然環境について、台風予報の視点から詳しく見てみましょう。

答えてくれる先生

坪木 和久(つぼき かずひさ)先生

名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授

名古屋大学にある「気象学研究室」にて、強い台風から日本を守るための研究として、飛行機に乗って台風の目に飛び込む勇気あふれる台風博士。

地球温暖化からみる、これからの台風

この先の未来で、地球がこわれちゃう!?

雨が強くなると、川があふれて町が水浸しになったり、土砂崩れが起きたりしてとってもキケンですよね。今回は地球温暖化の正体は何なのかと、私が研究している台風予測がこれからの未来にどう役立つのかをお話しします。

そもそも地球温暖化って、何でしょう?

みなさんも学校の授業で学んだり、ニュースで見たりしたことがあると思いますが、地球温暖化とは二酸化炭素が増えて地球の温度が上がることをいいます。地球は大気という膜(まく)で包まれていて、そのおかげで生き物が住みやすい温度になっているのですが、その膜の中にある二酸化炭素があまりに多くなると、今度は暖かくなりすぎて地球がずっと高熱を出しているような状態になってしまいます。

世界が暖かくなるとどうなるの?

50年後には地球の平均気温は1〜4℃上がり、日本の気温はそれよりもう少し高くなると言われています。私たち人間が熱があるときにいつも通りの生活ができないように、地球も温暖化が進むと様々な問題が起こります。例えば「地球の冷凍庫」とも言われる北極ではもうすでに氷が解け始めていて、シロクマなどたくさんの生き物が住める場所がどんどん無くなっているんです。また、北極圏の大地が凍ったのは遠い昔のため、それが解けるときに未知のウイルスが一緒に出てきて、新型コロナウイルスのように世界中に広まる可能性もあります。こういったことがあるから、地球温暖化は人間にとって大変な問題だと言われています。

暖かい地球が、巨大な台風を生み出す

地球温暖化の正体が分かったところで、ご質問の「地球温暖化が進むと台風や激しい雨が増えるのか」についてお答えします。分かりやすく言うと「地球温暖化のせいで台風の数が増えるというよりは、パワーが強くなっていく」ということになります。
地球の温度が上がって海が暖かくなると、激しい雨を降らせる積乱雲(せきらんうん)という雲のもとになる水蒸気が増えるので、台風にもっとパワーがついて雨風がどんどん強くなります。

雲の上から海まで落として台風の強さを測る器械「ドロップゾンデ」

みんなを守れる台風予報を

このような理由で、地球温暖化が進んだ未来では台風による被害が大きくなります。厳しい環境の中で命を守るために大切なのは、正しく避難すること。今の日本では、台風予報が当たらないこともあるため、「大丈夫だろう」と思って避難しない人がたくさんいます。そして、本当に大きな台風が来たときに命を落としてしまいます。みなさんの大切な家族や友達を守るために、正しい予報を出せるようにしなくちゃいけない。そういった思いで私は台風の研究を始めました。
それから私が取り組んでいるのは、台風の真ん中にある「台風の目」に入り、雲の上から器械を落として直接台風の強さを測る研究です。文章で書くとかんたん簡単にできそうですが、みんなの暮らしを脅(おびや)かす台風のど真ん中に入るわけですから、とっても勇気のいる研究でもあります。

ジェット機から見たスーパー台風「ラン」の台風の目(2017年10月撮影)

研究のために初めて飛行機に乗ったのは2017年。その時は台風の目には入らずに台風の周りを観察するだけの予定になっていましたが、コックピットに乗っていた先生とパイロットが相談して、なんと台風の目に入ってみることに…!あまりに急だったので、それから大慌(あわ)てで観測の準備をしました。雲の中を抜けている間は窓の外が真っ白で、すごく暗かったです。でもいざ雲を抜けて台風の目の中に入ると、それまでガタガタ揺れていた飛行機がピタッと収まって、それから一気に青い空が見えました。鳥肌が立ちましたね。
それ以降も台風を観測しましたが、実際にニュースになっている台風予測と比べるとかなりズレがありました。やはり直接測ってみることが大切だと分かって、嬉しかったですね。将来はパイロットも研究者もなしで、自動で観測ができるようになればいいなと思います。

台風の強さをコントロールできるように

私が次にやりたい研究は、台風に直接何かをばらまいて、雲の性質を変えて台風を弱くするということです。台風の勢いを少しでも弱めるだけで建物の被害が大きく減らせることが分かっているからです。この先、温暖化が進む地球で台風が強くなることは変えられませんが、それでも明るい未来にしていくために、正しい予測をしてきちんと避難ができるようにしていきたいです。

地球温暖化がどうして問題なのか、そして、災害が起こりそうなときの避難がどうして大切なのか、少しずつ分かってきましたか?次の台風が来たときはぜひ、ニュースの予報に注目してみてくださいね。

2017年10月 スーパー台風「ラン」への観測飛行記録(赤い線が実際の飛行経路です)
画像提供:琉球大学 山田広幸 准教授

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01

#_宇宙

宇宙で新鮮なお刺身を
食べることってできるの?

Q.宇宙で新鮮なお刺身を
食べることってできるの?

名古屋市 ともひろさん(小学3年生 取材当時)からの質問

地上では当たり前にできることも、宇宙では簡単にはできないことがたくさんあります。
逆に、地上では難しくても宇宙では簡単にできてしまうこともあるんです。
普段の生活ではなかなか想像できない宇宙でのくらしを、様々な角度から見てみましょう。

答えてくれる先生

竹内 努(たけうち つとむ)先生

名古屋大学 大学院理学研究科 准教授

名古屋大学にある「銀河進化学研究室(Ω研)」にて、宇宙にある銀河が生まれたときのことと、銀河が生まれてからどうやって今の姿に進化したのかを研究している宇宙博士。

4段階でみる未来の宇宙生活

新鮮な魚を食べる方法をトコトン考えてみよう

「お刺身を食べられるか?」というのはとても具体的で、おもしろい質問ですね。宇宙での食生活についてですが、そもそも宇宙に「住む」ということにも幾つかの段階があります。短い時間だけ宇宙に滞在することから、地球での私たちの暮らしを宇宙で行うまで、「住む」というレベルによって食べられる物の種類も変わります。ともひろさんの質問に4つの段階を追って考えていきましょう。

第1段階 宇宙ステーション
意外とおいしい?進化する宇宙食

はじめは、すでに存在している宇宙ステーションで食べる食べ物についてお話しします。「宇宙食」と聞くと、サプリメントやゼリーのような味気ない食事を想像して、あまりおいしくないのでは?と思うかもしれませんが、実は宇宙ステーション内には電子レンジがあり、お湯を沸かすこともできるんです。なので、飛行機の機内食やコンビニ弁当くらいのものは今でも食べることができます。できたての食事は難しいのですが、乾燥させたり、冷凍した状態の食品を地球から持っていけば、おいしく食べることができるんです。ちなみに宇宙食は、名古屋市科学館などのいくつかの科学系教育施設で買うこともできますよ。

第2段階 月面基地
重力があれば魚は育つ?

次は月面基地での食生活について考えてみましょう。はじめて地球の外で生活してみよう!となったとき、私たちはまず「月や火星に基地をつくる」ことになります。しかしながら、月も火星も地球とは重力が違うし、太陽が出ている時間や日光の強さも全く違います。しかも、お刺身を食べるとなると、魚にとって最も大切な水がありません。地球から別の星に大量の水を運ぶのは気が遠くなるほど大変なため、この時点では地球と同じようなおいしい野菜を作ったり、食べられる魚を育てたりすることは、まだ難しいでしょう。

スペースコロニー(イメージ図)

第3段階 スペースコロニー
お刺身への大きな一歩

3段階目でも実現にはまだまだ時間がかかりますが、「スペースコロニー」が建設されるとお刺身にはかなり近づきます。スペースコロニーとは、宇宙に全長数十kmの空気と土、水を閉じ込められる巨大なカプセルのようなものをつくり、それを回転させることで重力を生み出して人が住めるようにする、というアイデアのことをいいます。地球と同じような重力が得られるので、野菜や魚を育てられるし、牛や豚などの飼育も可能になります。では、お刺身はどうでしょう?マグロなどのおいしいお刺身の一部は広い海を泳いで筋肉をつける回遊魚です。スペースコロニーは地球と比べると、面積がとても小さいので海も小さくしか作れません。そのため、泳ぎ回って筋肉が育たないため最高級のマグロは食べられませんが小さな海でも育つカレイなどの白身魚は食べられるようになるでしょう。

第4段階 ダイソン・スフィア
いつかは現実に!遠い遠い未来のくらし

では最後の4段階目に、研究者にとっても、まだまだ夢のような宇宙での暮らしをご紹介します。「ダイソン・スフィア」という考え方のお話です。これは、惑星系の岩石をすべて使って、太陽のまわりを囲む大きな大きな殻を作り、ものすごく広い住む場所を作るというアイデアで、フリーマン・ダイソンという人が考案しました。
ダイソン・スフィアでは、地球より何倍も大きな海を作ることができるため、地球でできることは全てできるようになります。そうなれば、やっとマグロのような回遊魚のお刺身が食べられるようになりそうですね。

いろいろな波長の光で見た銀河の姿

ここまで、お刺身と宇宙について具体的に考えてきましたが、じつは私が研究していることは今回のお話とはずいぶん違っています。

私たちの住む地球や、その周りにある星が生まれたずっと昔のことと、それから星たちがどうやって作られ、銀河を形づくったかを調べています。宇宙の始まりには地球が無かったように、私たち人間も宇宙の星くずを材料に作られました。したがってこの研究を進めることで、人間の生命の本当の始まりについて知ることができるのです。このように、宇宙には人々を夢中にさせる不思議がたくさんあります。もし、もっと宇宙のことを知りたいと思ったら、図書室の本やタブレットを使って調べてみてはどうでしょう?ちょっと難しいけどとっても楽しい世界が広がっているはずですよ。

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