
「百貨店を通して豊かな文化を地域に還元する」を目的に2017年に連携を開始した松坂屋名古屋店と名古屋大学。このページでは、SDGsをテーマとした“みらいメッセージ”をはじめ、科学や社会ついてのさまざまな活動をご紹介することで、皆様に“新しい未来”をお届けしています。


私たちに、できること。
未来について考えてみよう!
暮らしの中でできる「持続可能な未来社会」に向けたアクションについてのコラムやイベントを展開。
名古屋大学の先生がわかりやすくお話しします。


「アニマルカリモク」
家具の端材で動物をつくろう

EVENT


イベントレポート
2023.07.07
CROSS
TALK


「木」からはじまる環境保護
〜SDGs 12 つくる責任 つかう責任・SDGs 15 陸の豊かさも守ろう〜
2023.08.18
先生 名古屋大学大学院生命農学研究科 教授
山崎 真理子 先生
先生 名古屋大学大学院環境学研究科 助教
山出 美弥 先生
カリモク家具株式会社/カリモク皆栄株式会社/知多カリモク株式会社

写真:前列左から 小林さん 平野さん 山崎先生 山出先生 中嶋さん
後列左から 安井さん 木村さん
環境保護について考えるとき、“木”は大きなポイントとなります。
今回は、カリモク家具株式会社、カリモク皆栄株式会社、知多カリモク株式会社の皆様と名古屋大学の先生たちが、木材の活用と環境保護について座談会を行いました。
知多カリモク工場見学レポート
今回は座談会の前に、資材の入荷と板材の仕分け、乾燥から家具の部品作りを行っている知多カリモクの工場を見学させていただきました。

知多カリモクはカリモクグループ内の製造工場で使用する木材を海外や国内から調達する資材工場です。カリモク資材の入荷から仕分け、乾燥、切断、椅子の脚などに使われる木管を作る工程、椅子の背などに使われる曲木を作る工程など、さまざまな作業が行われています。


カリモクではSDGsの取り組みのひとつとして、日本の森林保全を考え積極的に国産材の活用を進めています。工場では、木取り技術や、木の塊から削り出さずに薄い板を貼り合わせて曲木をする技術を活用し、木を無駄なく使用。小さな木材も接着工程でつなげて活用しているほか、端材の一部は、ワークショップ「アニマルカリモク」で使用して、木と触れ合い、木を好きになってもらう活動をしています。また、工場内で出る木くずなどは燃焼し、板材の乾燥や工場内の空調に利用しているそう。今回の工場見学でカリモクが木を大事にしていることが大変よくわかりました。
「木とつくる幸せな暮らし」を提案するカリモクの取り組み
カリモク カリモクグループは「自然と共生し、人生100年時代を意識した循環型社会」の実現を目指しています。カリモクが、そういった社会をつくるけん引役となるためには、経済的にも環境・社会的にも価値を創出し続けることが必要です。そのために、新しい事業領域・ビジネスモデルにも取り組んでいます。ひとつ例を挙げると、資生堂とコラボして「BAUM」のパッケージの木製部分の製造を担っています。

カリモクグループのミッションは「木とつくる幸せな暮らし」で、実は家具という言葉が入っていないんです。木を使って人を幸せにしたい、木による幸せな体験をしていただきたいという思いが中心にあります。
カリモク 使用している木材は、北海道や東北の国産材、マレーシアのラバートリー材(ゴムの木)、北米材などさまざまです。調達の際は、必ず現地を訪問しパートナーとして信頼できるかどうかを確認してお付き合いをしています。資材工場には現在約90種類もの木材の在庫があり、そのうち約70種類が国産材です。また、多樹種少量の広葉樹や針葉樹の調達も進めています。針葉樹は建材によく使われるのですが、輸入材との競合や住環境の変化などにより十分に活用されていない現状があります。それを暮らしの中で必ず手で触れる家具に使うことで、お客様が木に思いを馳せる機会が増えればいいなと思っています。

カリモク 木材という素材は、使いやすいものもあれば、節や割れ、長いもの、短いもの、反っているもの、色の濃いもの薄いものと本当にさまざまです。カリモクでは、この素材がもっているばらつきを上手に使い切る工夫を行っています。例をあげると、家具の部品としては使えない短い材料、節がある材料などを小さく切って接着剤で貼り合わせた「集成材」にして、その周囲に、節などの欠点が少ない3mm程度の薄い板を貼ることにより、ひとかたまりの無垢の材料に見せる製造方法があります。手間暇がかかりますが材料を大切に使うことができます。
木をもっと身近に感じてもらうには?

山崎先生 皆さんはテクスチャーとしての木のイメージは持たれていると思うのですが、そのイメージがどこまで繋がっているのだろうということをよく考えます。木材の色が変化するということも、意外と知られていないようです。
カリモク 木のアイテムを見たときに「癒やされるな」「きれいな色だな」とは思っても、もともとどんな木だったのかというところまで興味を持つ人は少ないかもしれませんね。
山崎先生 これは、生産者と消費者がすごくかけ離れているために、原材料がどんな過程を経て自分たちの手元に届いているのかを知らないからだと思うんです。なので、木材のトレーサビリティがポイントになってきます。トレーサビリティとは、その製品がつくられた経緯をわかるようにするために、材料の調達、生産、消費、廃棄までを追跡できるようにすること。つまり「見える化」です。これを実現しようとするとコストがかかるんですが、現時点ではこのトレーサビリティのコストが削られているんです。“丁寧にものを作る”こともSDGsの取り組みの一つですが、この中に、コストをかけた見える化も入れることが大切です。それに対して、消費者は責任をもって買う・使うという世の中になるとSDGsとしてもよりよい方に変わっていくのではないかと思います。
山出先生 お客様がものを買われるときにそのものの後ろにあるストーリーをどれだけ説明できるかというのは大切だと思います。木がどこで育ってここまできたのかというのを知ることで、木への愛着が増すと思うんです。そういったことも含めてブランディングにもなり、家具自体の価値が高まると思います。
山崎先生 木は人間と同じように“育つ”ものなので、手元に来るまでのストーリーにも共感が生まれやすいですよね。親近感もあるので、ほかの材料・素材との差別化にもなります。
木を使えば、二酸化炭素を減らすことができる
カリモク カリモクには「100歳の木を使うなら、その年輪にふさわしい家具を作りたい」という言葉があります。木を伐採したら、次の木が大きくなるまでにまた50年、100年かかります。私たちが木で家具を作り続けるためには、それまでの間使い続けられる家具でないといけません。木には、地球温暖化に影響を及ぼす「二酸化炭素」を吸収して炭素固定する機能があるなど、私たちは森林から多くの恩恵を受けていますが、長い時間をかけて育ち恩恵を与えてくれた木を短いスパンで廃棄してしまえば、その恩恵を無駄にしてしまいます。育った年月分長持ちする家具を作ることが使命の一つととらえ、グループ内に資材部門を持ち、資材―製造―販売が連携して品質至上に取り組んできました。
山崎先生 たとえば木製の家具を50年使って、メンテナンスしてさらに50年使ったとしたら、100年もの間炭素を貯蔵できたことになりますね。つまり、木でできたものを大事に使うことで大気中の二酸化炭素を減らすことができているんです。これは木造の建物でも同じことが言えます。

カリモク 家具の買い替えを検討する人は多いのですが、家具自体に愛着があり、リペアを選ぶという人もいます。家具を長く使うことで環境にもやさしくできるということをみなさんにもっと知ってもらえれば、リペアを選ぶ人も増えるのではないでしょうか。木は、生えていた年数と同じくらいの年数を十分に耐えられると言われています。たとえば神社などに使われるヒノキだと1000年以上使えるとも言われているんです。蝶番などの接合部が傷んできたときに適切なメンテナンスをすれば、さらに長く使い続けられます。
山崎先生 生物劣化さえしなければ木は金属などと比べてもはるかに耐久性が高い素材なので、家具自体の耐久性は半永久的だと思います。おっしゃたように、接合部のメンテナンスがポイントですね。
カリモク 私たちメーカーとしてはメンテナンスにコストがかからないように、メンテナンスしやすい設計・構造にするというのが課題です。家具をメンテナンスすることがあたりまえになれば、木を大切に長く使う社会になってくると思います。
山崎先生 昔は家具も家も長く使えるということ自体に価値があったように思いますが、今は賃貸で暮らす方も多く、家具はその空間に合うように引っ越すたびに買い替えるという方もいるそう。今の時代のキーワードは「空間」だと思います。どんな空間が好きなのか、どんな空間で過ごしたいのか、といった自分のイメージに合った家具と出会えば、自然と長く使いますよね。「長く使える」という機能面とのマッチというよりは、家具と空間のマッチ。その家具がある空間を好きになるというのがポイントだと思います。

将来的にメンテナンスがしやすいダイニングチェア。シート部のパーツ交換が可能。
山出先生 たとえばソファのリペアで張り替えを行って自分好みにしたとしても、これまでに使ってきた愛着や思い出は残るので、空間にマッチする。自分が落ち着く空間になる。空間を好きになるというのはそういうことなのかなと思いましたね。
カリモク 日常生活の中で、木で幸せを感じる瞬間を意識していただきたいと思っています。それは、公園を散歩したとき、職場の休憩室、家事をしているとき、リビングでくつろいでいるときなど、心地よいなと感じた時、その空間に木や木の家具、木の道具があることが多いのではないでしょうか?木で幸せを感じる瞬間を意識することができれば、自然と身の周りに木が増えると思います。その積み重ねが森林資源の持続的な有効活用につながると思っています。わたしたちとしては「木っていいよね」といってもらえるような空間やものを提案していきたいですね。
木を大切にしながらたくさん使おう

カリモク アニマルカリモクのイベントをしていて感じるのは「みんな木が大好き」ということです。人は生まれた時から木と暮らし始めます。庭や公園の木、建物の床や柱、椅子やテーブルなどの家具、食器など形や用途を変えてさまざまな木に触れる機会がありますよね。日々ともに暮らしてきたので、木に安らぎや癒しを感じる方も多いのではないでしょうか。木は人を癒やし、暮らしにも役立ち、さらに再生可能な資源にもなります。これほど素晴らしい素材はありません。私たちは今後も木とともに暮らしていきます。大好きな木を大切にかつたくさん使い、そして育てることが「自然と共生した循環型社会」につながるんです。カリモクとしても、魅力的な製品づくりやワークショップなどのイベントを通して、木を使う人を増やしていけたらと考えています。
山崎先生 家や仕事場、学校など、自分がいる場所の素材や材料を感じてほしいですね。街の中でも、校庭でも、どこでもいいので、好きな木をひとつ見つけてみてください。好きになると木が気になって、生涯にわたって木に触れる機会が増えると思います。あとは、木製の学習机もぜひ使ってほしいです。大学生や大人になってからも使えますし、木との付き合い方もわかります。大切に使ってほしいのはもちろんなんですが、木という素材はきれいなままの状態を保つことが正解ではないと思うので、ときには傷をつけてしまってもそれ自体が思い出になりますよ。木の家具と友達のように付き合っていけたらいいんじゃないかと思います。
カリモク そうですね。まずは木を好きになってもらうこと。好きになったら大切にしようと思いますからね。
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南海トラフ地震から身を守る
もしもに備えて今できること

EVENT


イベントレポート
2023.06.23
COLUMN


“自分ごと”で考える災害対策
〜SDGs 11 住み続けられるまちづくりを〜
2023.07.14

先生 特任准教授
小沢 裕治 先生

先生 特任助教
幸山 寛和 先生
全国の広い地域で被害が予測されている南海トラフ地震。
今回は名古屋大学の先生から、地震への備えについて、メッセージをいただきました。
2つのプレートの動きによって地震が起こる
日本ではよく地震が起きますが、これはプレートが動くことが原因です。地球には軽石でできている、軽い「大陸プレート」と、溶岩が冷えて固まってできた、重い「海洋プレート」の2種類があり、どちらのプレートも地球の表面にある薄い層「地殻」と地殻の下にある岩石の層「マントル」の2層構造になっています。マントルの先には地球の中心部である「核」があり、そこにはマントルが溶けてできた高熱の「マグマ」があります。このマグマが噴き出すことでマントルが温められて伸び縮みし、それによって表面のプレートが動くのです。
日本で起きる地震の種類には2つあり、1つは大陸プレートが海洋プレートの動きの影響を受ける「境界地震」、もう1つは海岸から遠い、陸地の内部の地殻内で発生する「内陸地震」です。境界地震は2つのプレートの摩擦により発生し、内陸地震は地殻そのものに働く圧縮力により発生するところが2つの地震の大きな違いです。

最近では、ニュースでよく「南海トラフ地震」が取り上げられていますよね。プレート同士の海底の溝状の地形のことを「トラフ」といい、南海トラフとはフィリピン海を含む海洋プレートである「フィリピン海プレート」とユーラシア大陸を形成する大陸プレートである「ユーラシアプレート」のトラフのこと。宮崎県から静岡県までの大きなトラフから地震が起きると予測されているのです。南海トラフ地震は100~150年間隔で繰り返し起きていて、前回の地震(昭和東南海地震(1944年)及び昭和南海地震(1946年))が発生してから70年以上が経過した現在では、次の地震の発生が迫っていると考えられています。発生した際には、愛知県では渥美半島などの地域に5m以上の津波が来る可能性が26%以上あると試算されています。

防災?減災?地震対策において大事なこと
南海トラフ地震が起きたときに命を守るためには備えが大切です。みなさんは「防災」という言葉を聞いたことがあるかと思います。災害そのものを防いだり、災害が起きたときに被害が出ないようにしたりすることです。では「減災」はどうでしょうか?これは、災害はいつかやってくるという前提で、被害を最小限に食い止める取り組みのこと。たとえば火災で考えてみると、燃えるものを周囲に置かず火災そのものを防ぐことが防災、火災が発生しそうな場所に消火器を置くことが減災です。防災・減災の考え方は災害によって異なり、例に出した火事の場合で考えると、防災は可能ですが、自然災害である地震においては防災でできることは限られています。減災が非常に大切になってくるのです。

私たちが今できることは?

私たち一人ひとりにも、今すぐにできる減災があります。まず、家での被害を小さくするためには、家具の固定をする、重いもの・大きいものを高い場所に置かないということが挙げられます。そして、実際に災害が起きたあとにも健康を守るためには、普段からしておくべきことがあります。1つ目は、家での準備です。水や食料、普段飲んでいる薬などの備蓄はもちろんのこと、常に最新の情報を仕入れることができるよう、乾電池式のラジオの用意やスマホのこまめな充電も大切です。ほかには、災害でカード決済やスマホ決済が使えなくなる可能性があるので現金の準備も。家から逃げるときに持ち出せる防災リュックもすぐに取り出せるところに置いておきましょう。2つ目は、避難についての確認です。家の近くの避難場所を確認し、実際に歩いて行ってみて、道を確認しておきましょう。被災想定区域や避難場所・避難経路、防災関係施設の位置などを示したハザードマップも普段から見るようにしておくことが大切です。

災害時に命を守るためのポイントは周りの人と連携すること。近隣に住む人などと普段からコミュニケーションを取り「顔の見える関係」をつくっておくことで、避難や避難生活がスムーズになるのです。自治体での防災訓練や地域の活動に参加するなどして、近所の方と面識をもつことから始めましょう。
“自分ごと”として知ること、備えることが大切
大学や研究機関などでの研究が進んだ結果、災害に関するさまざまな現象を詳しく調査・把握することができるようになりました。その一方で、自然現象を相手にしているので、予測することは未だ難しいのです。なので、まずは身近な場所にはどういった危険があるのか、災害が発生すると揺れはどのくらいか、津波や河川の氾濫による影響はどの程度あるのかを知ることが大切です。そういったことを知れば個人個人がすべき災害対策が具体的になります。
歴史や地震の発生の仕組みから見て、南海トラフ地震は必ず発生すると考えられます。個人で、家族で、学校や職場で、そして大学などの研究機関と民間企業が連携して備えるというのも大切です。“自分ごと”として考えること、そして、防災・減災など普段の地道な行動の積み重ねが災害時に大きな差を生みます。まずは関心を持つこと、できることから始めてください。

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